選定の視点
世界的な航空網の再編、観光地の収容力と環境負荷のバランス、査証・入国の容易さ、気候リスクと季節性、物価と価値の相対比較、文化資産と自然資源の希少性を軸に、2026年に顕著な伸びが見込まれる新興旅行地を抽出した。新規・増強空港や高速鉄道、フェリーの拡充といったアクセシビリティの変化、分散型観光による混雑回避、地域コミュニティとの収益共有、デジタルノマド受け入れやリモートワーク環境の進化も評価対象とした。
2026年に注目すべき新興旅行先ベスト10
ヌーク（グリーンランド） 新滑走路の就航拡大で欧米からの直行・経由便が現実味を増し、北極圏の自然体験が短期旅程でも可能に。夏はフィヨルド遊覧とハイキング、冬はオーロラ観測が核。キャパシティ制御と地域主導のガイド体制が進み、低負荷型のモデルケースとして注目度が高い。
サララ（オマーン・ドファール） モンスーン「カリーフ」による緑化の景観が差別化要因。海岸線のリゾート整備と香料交易の遺産観光が両立し、砂漠・高地・海の三層体験が一度に成立する。湾岸圏以外からの季節便が増え、肩シーズンの需要創出が進む見込みだ。
バトゥミ（ジョージア・アジャラ地方） 黒海の温暖な海辺とアジャラ山地のトレイルを組み合わせた短距離デュアル体験が強み。低コスト航空の増便、ワインと郷土料理の訴求、長期滞在ビザの柔軟性で欧州のセカンドシティ需要を取り込む。
ディリ＆アタウロ島（東ティモール） 空港インフラの拡充計画が進展し、コーラルトライアングルの手つかずの海中景観へのアクセスが向上。コミュニティ運営のロッジやダイビング運営が成熟し、収益の地域還元と生物多様性保全を両立させる潮流が形成されつつある。
サランダ＆アルバニアン・リビエラ（アルバニア） 新トンネル整備で沿岸移動が短縮、コルフ島からの連絡も高頻度化。ブトリントの世界遺産と透明度の高い入江、控えめな物価が欧州南岸の「代替地」として機能。沿岸ゾーニングの導入で乱開発抑止の動きも見える。
キガリ＆キブ湖（ルワンダ） 清潔で治安良好な首都を拠点に、コンゴ・ナイル・トレイルのトレッキングやサイクリングが伸長。大型会議と観光の組み合わせ（MICE＋レジャー）が拡大し、空港容量増強計画により国際接続性が段階的に改善する公算が高い。
タシュケント—サマルカンド回廊（ウズベキスタン） 高速列車網と開放的な査証政策で古都群への周遊が容易に。イスラム建築群のライトアップ、博物館複合施設の整備、英語案内の充実など受け入れ品質が向上。価格競争力が高く、欧亜横断ルートのハブとして存在感を高める。
アイセン地方（チリ・パタゴニア） カレテラ・オーストラル沿いの氷河・峡湾・温帯雨林を結ぶ「パークス・ルート」が国際的に認知を拡大。環境認証を得た小規模ロッジ、カヤックやオーバーランディングのガイド育成が進み、混雑とは無縁の広大な自然が売りだ。
クチン（マレーシア・サラワク） サラワク・デルタ世界ジオパークの登録で生態系観光が体系化。ボルネオ特有の洞窟群やオランウータン保護区、先住民族の文化体験を都市滞在と組み合わせられる。シンガポールや近隣主要都市からのアクセスが改善し、週末ロングの需要も拾う。
サント・アンタン＆サン・ヴィセンテ（カーボベルデ） 亜熱帯の乾いた山稜に整備された縦走路がハイキング市場で存在感。ミンデロの音楽文化と組み合わせた二島周遊が定番化し、島間フェリーの信頼性向上で行程が組みやすい。風力発電比率の高さもサステナブル志向の旅行者に評価される。
2026年の旅行トレンドの示唆
従来の観光大都市から、二次都市や沿岸・高地の分散型モデルへと流れが移り、航空の点と点を結ぶ直行便よりも、鉄道・フェリー・地域航空を組み合わせたモーダルミックスが計画の鍵を握る。ピーク回避の季節戦略（サララの雨季、パタゴニアの肩シーズン、極地の短夏）を採り入れることで、コストと環境負荷の最適化が可能となる。査証の電子化や入国審査の自動化は行動半径を広げ、現地の通信環境整備はワーケーション型の滞在を後押しする。為替のボラティリティが続く中、物価の安定と体験の独自性を両立する新興地が、旅程の主役へ台頭する兆しが明確だ。
