「残業代が正しく払われているのか分からない」「上司の言動がつらいけれど、どこからがハラスメントなのか判断しにくい」。こうした悩みは、感情だけで動くとこじれやすく、逆に何も動かないと状況が固定化してしまいがちです。本稿では、一般の方でも取り組みやすい「整理のコツ」「証拠の集め方」「段階的な対処法」を、生成AIの活用アイデアも交えて紹介します。専門用語はできるだけ避け、実践目線でまとめました。
残業代の基本とセルフチェック
・法定労働時間は原則「1日8時間・週40時間」。これを超える労働は、会社が36協定を締結していても、割増賃金（残業代）が必要になります。
・割増の目安は、時間外25％、法定休日労働35％、深夜（22時～5時）25％が加算されます。月60時間超の残業は50％（中小企業にも拡大）というルールもあります。
・「みなし残業（固定残業）」は上限時間や金額の範囲内でしかカバーされません。上限を超えた分は追加支払いの対象になり得ます。
・賃金請求の時効は原則3年（現行）。迷ったら早めの整理が有利です。
請求までの流れ：穏当かつ確実に進める
1) 実績を可視化：勤怠記録、PCのログオン・オフ、メール送受信時刻、業務日報などを時系列で並べます。
2) 社内での確認・相談：まずは上長や人事に事実ベースで共有。「何時間、どの業務で、いつの期間か」を数字で提示すると建設的です。
3) 書面化：口頭で進まない場合は、支払を求める主旨と対象期間・時間の根拠を簡潔に書面やメールで残します。
4) 外部機関活用：労働基準監督署への相談や、労働局の総合労働相談コーナーでの助言・あっせんも選択肢。専門家への相談は早いほど整理が進みます。
ハラスメントの見極めと初動
職場のハラスメントは、業務上必要な指導の範囲を逸脱し、人格否定や継続的な脅し・不利益取り扱いにつながる行為が典型です。
初動のポイントは次の通りです。
・行為の具体化：「いつ・どこで・誰から・何を言われた（された）」を一文で書けるレベルに。
・影響の記録：業務への支障、体調の変化、休業の有無など。「どんな負担が生じたか」を残します。
・社内窓口の確認：相談窓口や通報制度、就業規則の手続を確認。匿名相談が可能な場合もあります。
使える証拠の集め方：実践ガイド
・テキスト系：メール、チャット、業務指示のスクリーンショット、議事録。送受信日時が分かる形で保存。
・勤怠・労務系：勤怠表、シフト表、給与明細、就業規則、36協定の掲示。
・メモ・日記：当日のうちに簡潔に。主観と客観（事実）を分けて書くと信頼性が上がります。
・録音・画像：自分が関与する会話の記録は事実の確認に役立つことがありますが、職場の規則や相手との関係悪化に留意し、扱いは慎重に。
・保存のコツ：ファイル名に「日付_内容_相手」を入れる、改変を避けるため原本と写しを分ける、クラウドと手元の二重保存。
生成AIの賢い活用と注意点
・時系列整理：バラバラのメモを時系列に並べ、出来事の要約を作る補助に使えます。
・テンプレ作成：事実を埋め込むための相談書・要望書のひな形作り。丁寧な文面に整える用途に向きます。
・論点チェック：見逃しやすい視点（期間、対象業務、割増率、社内規程との整合）を洗い出す叩き台に。
・注意点：個人情報や機微情報は加工・匿名化して入力。社外サービスに未公開資料をそのままアップしない。会社が提供する閉域AIやローカル実行のツールがあれば優先。
社内対応と外部の助け
・社内：上長、人事、ハラスメント相談窓口、コンプライアンス通報制度。エスカレーションは段階的に。
・行政：労働基準監督署（賃金不払い等）、都道府県労働局「総合労働相談コーナー」、雇用環境・均等部（ハラスメント関連）。
・その他：法テラス（法律相談の案内）、労働組合・ユニオン（交渉支援）。
まとめ：感情ではなく記録で動く
残業代もハラスメントも、カギは「事実の整理」と「段階的な対処」。主張を強くするのではなく、証拠を強くする。これが最短ルートです。日々の小さな記録が、大きな助けになります。生成AIは、その整理と文章化を手早く進める道具として活用しつつ、情報管理には細心の注意を。動き出すなら、まずは過去3か月の出来事を時系列に並べることから始めましょう。
