最初に：課題と問いの整理
5Gの固定無線アクセス（FWA）は、工事不要で自宅に高速インターネットを引ける新しい選択肢です。では、光回線のような「固定回線」を本当に置き換えられるのでしょうか。論点は大きく3つあります。速度と安定性、データの使い放題感（混雑時の制御含む）、そして住環境との相性です。本稿では、置き換えが成立しやすい条件と、向かない場面、導入時の工夫をわかりやすく整理します。
5G FWAとは何か：ざっくり理解
FWAは、近くの5G基地局から自宅の専用ルーター（CPE）に電波でインターネットを届ける仕組みです。光回線のような屋内工事が不要で、コンセントに挿して設定すればすぐ使える手軽さが魅力。速度は「ベストエフォート」で、環境次第で数十〜数百Mbps、条件が良ければそれ以上も期待できます。一方で、時間帯や基地局の混雑、住居の構造（鉄筋・窓の向き・周囲の建物）に影響を受けやすい特性があります。
置き換えに向くケース：相性が良い利用シーン
- 光回線の工事が難しい、または待ち時間をかけたくない（賃貸、短期入居、引っ越しが多いなど）。
- 日中〜夜間の混雑が少ないエリアで、下り100Mbps前後・上り20Mbps以上が安定して出る。
- 主な用途が動画視聴、オンライン会議、ウェブ閲覧、一般的なクラウド作業など。
- 家族同時接続が中程度（数台〜十数台）で、ヘビーな大容量ダウンロードが頻繁ではない。
- データ容量や速度制御のルール（混雑時の制限など）を理解し、ライフスタイルに合っている。
注意すべきポイント：固定代替のハードル
- 安定性の「波」：ピーク時間帯の速度低下やレイテンシのばらつきが起こりえる。ライブ配信や対戦ゲームなど遅延に敏感な用途では体感差が出やすい。
- 電波環境の影響：窓から遠い、遮蔽物が多い、鉄筋コンクリートの奥まった部屋では速度が落ちる。CPEの設置位置で結果が大きく変わる。
- 公平性制御：プランや事業者により、混雑時の速度制御・一定量超過後の調整がある。完全な「無制限」とは限らない。
- 上り速度の確保：動画のクラウド保存、テレワークの大容量アップロードでは、上りがボトルネックになり得る。
- 同時接続の負荷：家族全員が4K配信や大規模ダウンロードを同時に行うと、宅内Wi‑Fiも含めて全体の体感が落ちる。
導入・運用のコツ：快適度を最大化する
- お試し期間を活用：返品可・違約金なし期間で、平日夜・週末・朝など複数の時間帯を実測。動画、会議、ゲーム、アップロードを実際に試す。
- 設置位置の最適化：CPEは窓際・高い位置に。金属家具や電子レンジ近くは避ける。コンセント位置を柔軟にできる延長ケーブルも有効。
- 宅内Wi‑Fiの強化：CPE単体のWi‑Fiでは部屋間の減衰が起きる。Wi‑Fi 6/6E対応のメッシュWi‑Fiで家中の電波を均一化。
- バックアップの用意：在宅勤務で止められない場合、スマホテザリングやサブ回線のフェイルオーバー設定を検討。
- プランの読み込み：混雑時制御・月間容量・速度保証の有無、違約金や端末分割の条件を事前に確認。
- 屋外アンテナ・窓用キット：対応CPEなら外付けアンテナや窓パネルで受信改善が見込める（提供可否は事業者次第）。
これからの進化：将来性は高い
5G-Advancedの導入や周波数の拡充、ネットワークスライシングによる用途別の優先制御、CPEの高感度化など、FWAの弱点を補う技術は着実に進みます。都市部だけでなく郊外でも基地局の最適化が進めば、固定回線に匹敵する体験が広がる可能性があります。
結論：置き換えは「条件付きで現実的」
5G FWAは、工事不要・すぐ使える・引っ越しに強いという明確な利点があり、電波条件が良く、混雑の影響が小さいエリアでは固定回線の代替として十分に実用的です。一方、常に高い安定性を求めるヘビーユースや、上り性能が重要なワークフロー、建物構造の相性が悪い住環境では、引き続き光回線が有利です。まずはお試し期間で自分のライフスタイルと相性を見極め、必要に応じて宅内Wi‑Fi強化やバックアップ回線を組み合わせる。これが、失敗しない「固定代替」の現実的な進め方と言えるでしょう。
