日本の学校はどうして4月に新学期が始まるのか——コロナ禍をきっかけに「9月始業」案が話題になったことで、問い直す機会が増えました。本稿では、会計年度、気候、歴史という三つの観点から理由を整理しつつ、これからの選択肢や現実的な改善策を提案します。専門用語はなるべく避け、日々の実感に近い言葉でまとめました。
会計年度に合わせた合理性
最も大きいのは、日本の会計年度が4月始まりであることです。国や自治体の予算は3月に成立し、4月から執行されます。学校の運営費、教科書や設備の更新、教員の採用・配置といった重要な動きは、このサイクルに連動しています。新学期を4月に置けば、予算の確定と同時に新体制をスタートでき、手続きがシンプルになります。
さらに企業の人事年度も多くが4月始まりで、大学の卒業・就職の流れと噛み合っています。入試、卒業式、入社式という節目が春に集中するのは、社会全体の時計が同じリズムで動いているからです。
気候と季節行事の影響
春は寒さが和らぎ、通学や制服の準備、通園・通学路の安全確認など、生活の立ち上げに適した季節です。桜の季節と重なる入学式は、日本ならではの象徴的な行事として根づきました。学期区分も、4〜7月の1学期、夏休み、2学期、冬休み、3学期というリズムが定着し、子どもも保護者も年間計画を立てやすくなっています。
もちろん地域差はありますが、春は台風や豪雨の影響が比較的少ない時期でもあります。4月始業は、気候面のリスク管理という観点でも、一定の合理性を持っています。
歴史的経緯と国際比較
明治期、日本は教育制度を近代化する中で学年の区切り方を模索しました。初期には9月始業の学校もありましたが、やがて会計年度と整合させる流れが強まり、19世紀末から20世紀初頭にかけて4月始業が標準化されていきます。徴税や予算編成のタイミング、学事日程の統一といった実務上の必要が背景にありました。
海外を見ると、欧米には9月始業が多く、南半球では1〜2月始業が主流です。つまり「春・秋どちらが正しい」という話ではなく、歴史・経済・気候に合わせて、それぞれの社会が選んだ結果だと言えます。
9月始業の議論とハードル
近年の議論では、9月始業のメリットとして以下が語られます。
- 海外の大学や交換留学とのカレンダー整合が取りやすい
- 受験から入学までの準備期間を長く確保できる
- 夏の猛暑を避け、秋の落ち着いた時期に学期を立ち上げられる
一方で、現実的なハードルも小さくありません。
- 会計年度・人事年度とのズレにより、予算・採用・教材調達が複雑化
- 保育・学童、行事、企業の採用スケジュールなど社会全体の大規模な再設計が必要
- 9月は台風シーズンで、開校直後が荒天と重なるリスク
- 移行期の学年またぎや教科書改訂、入試制度の同時変更に伴うコスト
これからの現実的なアプローチ
完全な「9月一本化」か「4月固定」かの二択ではなく、段階的で柔軟な設計が有効です。
- 四学期制・モジュール制の導入で、春・秋のどちらからでも学習を開始できる枠組みを拡大
- 大学は一部学部で秋入学トラックを増やし、留学生・国内生の選択肢を広げる
- 高大接続では、ギャップターム(春〜夏の探究・インターン期間)を制度化して学びを途切れさせない
- 自治体や学校単位でのパイロット実施とエビデンス収集を行い、効果とコストを見える化
- オンライン履修や単位互換を活用し、開始時期の差を越えて学修機会を確保
4月始業は、会計・気候・歴史が折り重なった日本社会の「実用的な解」です。同時に、国際化や学びの多様化が進む今、春と秋の両軸で学びを設計する発想が求められています。大切なのは、子どもや学生の学びの連続性を守りつつ、学校と社会のリズムを無理なく調整すること。段階的な試行と対話を積み重ねることで、「日本らしい柔軟さ」を生かした新しい学事暦が見えてくるはずです。





















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