フロントガラスのフチに並ぶ黒い点々。多くの人が目にしていながら、「何のためにあるの？」と疑問に思うパーツです。とくに夏場の直射日光や冬場の暖房で、ガラスが「熱で割れる」話を聞くと、不安になることもあるでしょう。本稿では、この黒い点々の正体と、なぜ熱割れの対策になるのかをわかりやすく整理し、日常でできるひと工夫も提案します。
黒い点々の正体は「セラミックフリット」
縁の黒い帯（黒枠）と、その内側にグラデーション状に並ぶ点々は、セラミック顔料を高温で焼き付けた「フリット」と呼ばれる加工です。塗装ではなくガラスと一体化しているため、簡単には剥がれません。黒枠は主にガラスをボディに接着するウレタン接着剤を隠す役目を持ち、点々のグラデーションは黒枠から透明ガラスへの見た目の段差をやわらげます。
なぜ熱割れを防ぐのか：温度差と応力をやさしく分散
ガラスは急激な温度差に弱く、局所的に熱せられたり冷やされたりすると内部に応力が溜まり、細かなヒビや割れ（熱割れ）につながることがあります。黒いフリットは太陽光をよく吸収して温まりやすい一方で、いきなり黒から透明に切り替わると温度差の境目がくっきり生まれて応力が集中しやすくなります。
そこで活きるのが「点々」のグラデーション。黒の面積を段階的に減らすことで、熱の伝わり方と温度上昇をなだらかにし、境界の応力集中を抑えます。言い換えると、点々は熱のカーブを滑らかにする「緩衝ゾーン」。これが熱割れのリスク低減に効いているのです。
もう一つの大切な役目：接着剤の保護と視界の快適さ
黒枠と点々には、ほかにも実用的な効果があります。
- 接着強度の向上：フリットのザラつきがウレタン接着剤の密着を助けます。
- 紫外線からの保護：黒枠が接着剤を直射日光から遮り、劣化を抑えます。
- 見た目の自然さ：点々のグラデーションが「黒→透明」の段差を柔らげ、にじみや縁の違和感を減らします。
- センサー・映り込み対策：ミラーベース周辺のドットは、カメラやセンサーの写り込み防止にも使われます。
よくある勘違いQ&A
- アンテナ？ → いいえ。ドットは受信機能ではなく、主に熱・接着・見た目のための加工です。
- UVカットの本体？ → いいえ。UV対策はガラスそのものの性能が基本。黒枠は接着剤保護に効きます。
- 剥がれても塗ればOK？ → 焼き付け一体化なので、ペンでの補修では同等性能になりません。気になる場合は専門業者へ相談を。
日常でできるひと工夫（熱割れを招きにくい使い方）
- 急激な温度変化を避ける：真夏の高温時にエアコンを最強で一気にフロントへ当て続ける、真冬に熱風を一点集中で当てる、といった“急冷・急加熱”を控えると安心です。
- サンシェードの活用：停車中の直射をやわらげ、ガラス縁の温度ムラを軽減します。
- 清掃はやさしく：強い溶剤や硬いスクレーパーで縁をゴシゴシするとコーティングや周辺部品を傷める恐れ。ガラス用クリーナーと柔らかいクロスが無難です。
- 貼り物は注意：フチに濃色のステッカーや金属調フィルムを部分的に貼ると、そこだけ熱を持ち温度差を生みやすくなります。
まとめ：小さなドットに大きな理屈
フロントガラス縁の黒い点々は、デザインではなく機能の集合体。セラミックフリットの黒枠とドットが、接着の強さ、紫外線からの保護、視界の自然さ、そして熱割れリスクの低減まで、複数の役割を同時に担っています。仕組みを知っていれば、急激な温度差を避けるなど日々の使い方でさらにリスクを下げられます。何気ない点々の並びに、ガラスとクルマ作りの知恵が詰まっている——そう思うと、フロントガラスを見る目が少し変わるはずです。
