なぜ手術着は緑や青が多いのか。医療の現場で当たり前に見かける色ですが、理由は「見やすさ」と「疲れにくさ」にあります。本稿では、残像や補色といった目のしくみ、視認性の工夫、照明環境との関係から、その選択の背景をわかりやすく整理し、日常にも生かせるヒントを提案します。
白から緑・青へ：背景にある“見え方”の改善
かつては白衣・白い手術着が主流でした。しかし手術中は赤い血液や臓器を長時間見続けます。白は光を強く反射し、長時間の作業では眩しさや目の疲れにつながりやすいのが難点。そこで、まぶしさを抑えつつ、必要な部分の見分けがつきやすい緑・青系が採用されるようになりました。
残像と補色：赤を見ると緑が「効く」理由
私たちの目は、強い赤を見続けると視細胞が一時的に疲れ、視野の中に「緑がかった残像」を作ります。これは色の相棒ともいえる「補色」の働き。手術野の赤を正確に見分けるには、背景や衣服を赤の補色に近い緑や青にすることで、残像の影響を和らげ、コントラストを安定させられます。結果として、微妙な色の変化（出血の量感、組織の違い）を捉えやすくなるのです。
視認性アップがもたらす現場のメリット
緑・青の衣服やリネンは、赤い対象物とのコントラストを適度に保ちます。白のように眩しさを増幅せず、黒のように暗部をつぶしません。周辺視野に入るスタッフの衣装や器具の布が落ち着いた緑・青で統一されていると、主役である手術野への注意が散らされにくく、ミスを防ぐ助けになります。
疲労軽減と集中力の維持
長時間の高度な集中は、目の負担が大きいほど途切れやすくなります。緑・青は、白よりも反射が少なく、光源からのグレア（ぎらつき）を抑えるため、眼精疲労を軽減。結果として、集中力の持続や作業効率の維持につながると考えられています。これは看護・介助スタッフにも同様の効果が期待できます。
照明・モニター時代の“色設計”
近年はLED照明や内視鏡・モニターの映像が手術の主役になる場面も増えました。緑・青のウェアは画面の赤系の情報と干渉しにくく、反射光やカラーフリンジ（色のにじみ）を抑えます。また、生地の艶を抑えるマットな仕上げや、光の波長に配慮した染料を使うことで、映像の色再現性が保たれやすいという利点もあります。
よくある誤解：感染対策のため？
緑・青が「清潔そうだから」「菌に強いから」という説明がされることもありますが、色自体が抗菌性を持つわけではありません。清潔さは素材や洗浄・滅菌プロセスで担保されます。緑・青が選ばれる主因は、視覚的な合理性と作業性の向上にあります。
日常にも応用できる色の知恵
会議資料や料理の盛り付け、デスク周りの配色でも、色のコントラストと残像の考え方は役立ちます。たとえば、赤系の情報を正確に見分けたいときは、背景に緑・青が入ると見やすく、目が疲れにくい傾向があります。長時間の作業空間は、白一色にせず、柔らかな寒色を混ぜると集中を助けることがあります。
まとめ：色は“働きやすさ”の設計
手術着が緑や青であるのは偶然ではなく、視覚のしくみと環境要因に基づく実用的な選択です。赤との補色関係による残像の抑制、眩しさの軽減、モニター時代の視認性の確保。これらは医療現場だけでなく、私たちの日常にも応用できる「見え方のデザイン」の発想です。何かに集中したい場面では、色の相性を味方につける。そんな小さな工夫が、快適さと成果を静かに後押ししてくれます。
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