SNSでの中傷は、言い過ぎなのか正当な批判なのか、どこからが名誉毀損や侮辱罪に当たるのかが分かりにくい、という悩みがつきものです。さらに、匿名投稿の「発信者情報開示」は何をどう進めればいいのかも見えづらい課題です。本稿では、境界線を見分ける考え方、実際の対応手順、そしてトラブルを避ける書き方のコツを、できるだけ平易に整理します。
名誉毀損と侮辱罪の違いをやさしく整理
名誉毀損は「具体的な事実を示して他人の社会的評価を下げる」行為です。たとえ事実でも、公共性や公益目的が乏しく、真実(または真実と信じる相当の理由)がないと違法になり得ます。
一方、侮辱罪は「事実を示さずに抽象的に人を貶める」行為(悪口や嘲笑など)を指します。SNSでは短文・拡散性ゆえに、軽い言い回しのつもりでも侮辱と評価されることがあります。
境界線を見分けるチェックポイント
- 特定性: 誰に向けたものかが特定できるか(実名、ID、写真、文脈の積み重ね)。
- 事実性: 具体的事実の提示があるか。「〇月〇日に〇円を着服した」等は名誉毀損に近づきます。
- 公共性・公益性: 社会的に知らせる必要がある問題提起か、単なる私的な悪口か。
- 真実性・相当性: 裏取りや出典はあるか。伝聞や憶測の断定は危険です。
- 表現の仕方: 罵倒語の連発、執拗な投稿、ハッシュタグでの吊し上げは違法評価を強めます。
- 文脈: 批評・レビューの範囲でも、論点を離れた人格攻撃はアウトに傾きます。
最近の動きと罰則のイメージ
侮辱罪は近年、法定刑が引き上げられ、悪質なケースに対する抑止が強まりました。名誉毀損・侮辱は民事(損害賠償・削除請求)と刑事(告訴・処罰)の両面があり、投稿内容や態様で対応が分かれます。企業アカウントやインフルエンサーも、ガイドライン整備やモデレーション強化が進んでいます。
発信者情報開示の実際と流れ
匿名の発信者を特定するための「発信者情報開示」は、近年の制度改正で裁判所による一体的な手続(発信者情報開示命令)が整備され、以前より迅速化・明確化が進みました。一般的な流れは次の通りです。
- 証拠保全: 問題投稿のスクリーンショット、URL、投稿ID、日時、やり取りのログを保存。
- 保存依頼: プラットフォームやプロバイダにログ保存を求める。ログは短期間で消えるため早期対応が重要。
- 裁判所手続: 発信者情報開示命令の申立て等で、プラットフォーム→接続事業者と段階的に情報を得る。
- 次の選択: 特定後に、損害賠償請求、削除・訂正の求め、刑事告訴などを検討。
開示の可否は、権利侵害が明白か、投稿が違法と評価される程度か、などの要素で判断されます。コストや時間、相手の所在不明リスクもあるため、早めの専門家相談が実務上は有効です。
いますぐできる初動対応
- 冷静に証拠を確保(スクショは投稿全体とURL・日時が分かる形で保存)。
- プラットフォームの通報・削除申請フォームを活用。
- 拡散を助長しない投稿運用(反応を最小限に、説明は事実ベースで簡潔に)。
- 誤情報には「出典提示の訂正」を優先し、感情的な応酬を避ける。
- アカウント設定の見直し(ミュート、ブロック、キーワードフィルタ)。
トラブルを避ける書き方のコツ
- 人ではなく「行為」を批判する。人格攻撃は避ける。
- 断定を控え、出典・根拠を明示。「~と報じられている」「~の資料によれば」など。
- 皮肉・揶揄は文字だと強く伝わる。比喩や誇張は控えめに。
- 一度で伝わらなければ重ねて罵倒せず、説明を更新・訂正する。
- 引用は範囲を限定し、スクショにはモザイクなどの配慮を。
まとめ
名誉毀損は「事実の摘示」、侮辱は「抽象的な貶め」という違いが基本線です。境界は文脈と表現で容易に越えてしまうため、出典を示す、断定を避ける、人格攻撃をしない、といった運用が有効です。被害に遭った場合は、証拠保全と早期の手続選択が鍵になります。本稿は一般的な情報の提供であり、個別の事情では結論が変わることがあります。迷ったときは、プラットフォームのルール確認と専門家への早期相談を検討してください。





















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