サーバーレスを使うと運用が楽になる一方で、「最初の1回だけやたら遅い」という現象に悩む人は多いです。これがいわゆるコールドスタート。ユーザー体験を落とさずにコストも抑えたい——そのジレンマを、理由と対策の両面から分かりやすく整理します。
はじめに:なぜ「コールドスタート」が問題になるの?
普段は速いのに、朝イチや久しぶりのアクセスだけ妙に待たされる。ECのカート追加、チャットの最初の一言、管理画面の初回表示など、最初の一手が遅いと離脱につながります。原因をつかみ、効果の高い順に打ち手を入れるのが近道です。
コールドスタートとは何か
サーバーレス基盤は負荷がないときリソースを休ませ、リクエストが来ると必要分だけ起動します。この「休止からの起動」にかかる時間がコールドスタートで、起動済み状態(ウォーム)と比べて数百ミリ秒〜数秒遅くなることがあります。
コールドスタートが起きる主な理由
- 起動と初期化:実行環境の用意、ランタイムや関数の読み込みに時間がかかる
- コードが重い:依存ライブラリが多い、パッケージが大きい、初期処理が複雑
- ネットワーク準備:VPC接続、秘密情報の取得、DB接続の確立などの待ち
- 言語と設定:Java/.NETは初期化が重くなりやすい、メモリ設定はCPU性能にも影響
- 急な同時実行:一気にリクエストが増えると新規インスタンスが連続で立ち上がる
どんな場面で目立つ?
- アクセス間隔が長い時間帯(深夜明け、キャンペーン直前)
- 重いライブラリを読み込む関数や、初期化が多いAPIの入り口
- Webhookやチャット、ボタン押下など「待たされると気づきやすいUI」
すぐできる軽量な対策
- 依存とサイズのダイエット:使わないライブラリを削り、コードとアセットを小さく
- 遅延初期化:本当に必要になるまで重い準備を後回しにする(lazy load)
- 接続の工夫:DBは接続プールやプロキシ(例:RDS Proxy)で確立時間を短縮
- メモリ設定を見直す:メモリを少し増やすだけでCPUが増え、起動が速くなることがある
- 関数の分割:用途ごとに関数を小さく保ち、初期化の共通部分を減らす
- 軽めのランタイム選択:同じ処理なら初期化が軽い言語・フレームワークを選ぶ
効果が高い対策(コストや設定を伴うもの)
- プロビジョンドコンカレンシー等の常時起動枠:一定数を常にウォーム状態に保持
- ウォームアップのスケジュール実行:数分おきに軽いリクエストで温める
- キューで平準化:SQSなどでリクエストをならし、急なスパイクを緩和
- エッジ実行の活用:CDNやエッジ環境は起動が軽く、応答開始が早い場合がある
常時起動やウォームアップはコストとトレードオフです。ピークや重要導線に絞って適用すると費用対効果が高まります。
観測とチューニングの進め方
- 指標を見る:p95/p99のレイテンシ、コールド/ウォーム比率、同時実行数の推移
- 再現テスト:5〜30分のアイドル後に負荷をかけ、初回応答を計測
- 一手ずつ検証:設定変更や依存削減は段階的に行い、効果をビフォーアフターで確認
生成AIサービスの場合のコツ
- 最初の応答開始を早く:ストリーミング送出で「待っている感」を軽減
- プロンプトや前処理を軽量化:初回だけ行う重い準備はキャッシュ化
- 事前推論の活用:需要が読める時間帯は先に温めておく
生成AIは応答自体が重いこともありますが、初回のもたつきを減らすだけで体感は大きく改善します。
まとめ:体感を落とさず、コストも賢く
コールドスタートは、仕組みを知れば防げる遅延です。まずは「コードを軽く・初期化を遅らせる・メモリを見直す」という低コストの対策から。重要導線には常時起動をピンポイントで当て、観測に基づいて微調整する。これだけで多くのケースは十分に速く、そして無駄なく動きます。
























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