普段、何気なく手に取っているスナック菓子。その代表格ともいえる「ポテトチップス」について、ふと疑問に思ったことはありませんか?「なぜ、ポテトチップスはあんなにも薄いのだろう?」と。厚切りのザクザク食感も美味しいですが、やはり定番はあの絶妙な薄さですよね。
実は、その薄さの裏には、今から170年以上も昔のある料理人の「怒り」と「復讐心」が大きく関わっているとしたら、皆さんはどう思われるでしょうか。今回は、生成AIと共に、世界中で愛されるポテトチップスが薄切りになった、まるでドラマのような意外な誕生秘話を探っていきたいと思います。
始まりは高級リゾートでのクレームだった
物語の舞台は、1853年のアメリカ・ニューヨーク州。風光明媚な避暑地として知られるサラトガ・スプリングスにある高級リゾートホテル「ムーン・レイク・ロッジ」です。このホテルの厨房で腕を振るっていたのが、物語の主人公である料理人、ジョージ・クラム氏でした。
彼はアフリカ系アメリカ人とネイティブアメリカンの血を引く人物で、自分の料理に絶対的な自信とプライドを持つ、腕利きの料理人だったと言われています。彼の作るフライドポテトは、当時としては一般的な厚切りのもので、レストランの人気メニューの一つでした。
そんなある日のこと、一人のうるさ型の客がレストランを訪れます。一説には、後に「鉄道王」として名を馳せる大富豪、コーネリアス・ヴァンダービルト氏だったとも言われています。
彼はクラム氏のフライドポテトを注文しましたが、一口食べるなり、ウェイターを呼びつけ、こう言い放ちました。
「このポテトは厚すぎる!もっと薄く切ったものを持ってこい!」
プライドの高いクラム氏は、少々気分を害しながらも、言われた通りに少し薄く切って作り直しました。しかし、客はそれにも満足しません。「まだ厚い!」と、再び突き返してきたのです。このやり取りが、何度も何度も繰り返されました。
料理人の怒りが生んだ「嫌がらせ」の一皿
度重なる理不尽な要求に、ついにクラム氏の堪忍袋の緒が切れました。彼のプライドはズタズタに引き裂かれ、怒りは頂点に達します。
「そこまで言うなら、二度と文句が言えないような代物を出してやる。フォークで刺すこともできないくらい、ペラペラにしてやろうじゃないか!」
これは、もはや料理ではありませんでした。クラム氏なりの、客に対する最大限の「嫌がらせ」であり「復讐」だったのです。
彼は、ジャガイモをまるで紙のように、向こう側が透けて見えるほど極薄にスライスしました。そして、その薄っぺらいジャガイモを、カリッカリになるまで高温の油で揚げ、仕上げにこれでもかというほど大量の塩を振りかけました。
「どうだ、これなら文句はないだろう!」という彼の心の声が聞こえてくるような、挑発的な一皿。彼はこの「失敗作」を客の元へ届けさせました。厨房の誰もが、次に来るであろう更なる怒声とクレームを覚悟していたことでしょう。
復讐が大絶賛へ!偶然が生んだ奇跡のスナック
ところが、事態は誰もが予想しなかった方向へと進みます。
その「嫌がらせポテト」を一口食べた客は、怒るどころか、目を丸くして大喜びしたのです。「素晴らしい!これだ、私が求めていたのは!」と、その斬新な食感を大絶賛。薄さゆえのパリパリとした歯ざわりと、強めの塩気が絶妙にマッチし、彼の舌を虜にしたのでした。
復讐心から生まれたはずの一皿は、思いがけず最高の評価を得てしまったのです。この偶然の産物は、その地名にちなんで「サラトガ・チップス(Saratoga Chips)」と名付けられ、瞬く間にホテルの名物メニューとなりました。
噂はすぐに広まり、多くの客がこの「サラトガ・チップス」を求めてレストランにやって来るようになりました。クラム氏の怒りが、結果的に歴史的な大ヒット商品を生み出すきっかけとなったのです。なんとも皮肉で、面白い話ではありませんか。
「サラトガ・チップス」から世界の「ポテトチップス」へ
当初、「サラトガ・チップス」はレストランでしか食べられない特別な料理でした。しかし、その人気はとどまることを知らず、やがてクラム氏は自身のレストランを開業するほどになります。
その後、テイクアウト用に箱詰めされるようになり、さらに時代が進むと、ポテトの皮をむく機械やスライサーが発明されたことで大量生産が可能になりました。そして、ワックスペーパーの袋に詰められた「ポテトチップス」として、一般の商店でも販売されるようになり、アメリカ全土、そして世界中へと広まっていったのです。
一人の料理人のプライドと怒りが、一人の客のわがままな要求とぶつかり合ったことで生まれた、偶然の産物。それが、今や私たちが当たり前のように食べているポテトチップスのルーツです。
次にポテトチップスの袋を開けるとき、この170年以上も前の料理人の復讐劇に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。いつものポテトチップスが、少し違った味わいに感じられるかもしれません。


















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