新しい年を迎える準備として、多くの方が頭を悩ませるのが年賀状ではないでしょうか。「今年もよろしくお願いします」という気持ちを伝えたいけれど、どんな言葉を選べば失礼にならないか、特に定型句の使い方には迷うものです。中でも「寿」という文字。おめでたい言葉の代表格ですが、意外にも年賀状ではあまり見かけません。なぜなのでしょうか？
この素朴な疑問を、最近話題の生成AIに尋ねてみたところ、非常に興味深い答えが返ってきました。今回は、そのAIの回答を紐解きながら、年賀状における言葉選びの背景と、知っておきたい忌中のマナーについて、冠婚葬祭の専門家として分かりやすく解説していきます。
「寿」が年賀状で一般的でない、その意外な理由
生成AIに「なぜ年賀状に“寿”をあまり使わないのか？」と尋ねると、主に2つの理由を挙げてくれました。それは、「言葉の持つ特別な意味合い」と「送る相手への配慮」です。
理由1：結婚祝いのイメージが強い
まず、「寿」という漢字は、私たち日本人にとって「結婚」を強く連想させる言葉です。結婚式場の名前や引き出物の熨斗（のし）紙など、人生の大きな節目であるお祝い事、特に結婚に関連する場面で頻繁に使われます。そのため、新年を祝うという広い意味を持つ年賀状に使うと、「誰か結婚したのかな？」と受け取られてしまう可能性があるのです。
年賀状には、新年を祝うための言葉が他にもたくさんあります。「賀正」「迎春」「謹賀新年」など、誰に送っても誤解なく新年のお祝いの気持ちが伝わる言葉が好まれる傾向にあります。つまり、「寿」は間違いではないものの、より特定の意味合いが強いため、一般的な新年の挨拶としては少し限定的すぎる、というのが理由の一つです。
理由2：受け取る相手へのデリケートな配慮
もう一つの理由は、より深い配慮に基づいています。年賀状は、友人、親戚、会社の同僚など、様々な状況にある人々へ送るものです。受け取る方の中には、ご自身やご家族のことで悩みを抱えている方もいらっしゃるかもしれません。
例えば、結婚を望んでいるけれどなかなか縁に恵まれない方、あるいは残念ながら離婚や死別を経験された方にとって、「寿」という文字は意図せずとも心をざわつかせるきっかけになってしまうかもしれません。年賀状は、多くの人に一斉に送るものだからこそ、誰が受け取っても穏やかな気持ちで新年を迎えられるような、普遍的で差し障りのない言葉を選ぶのが、日本らしい「思いやりのマナー」と言えるでしょう。
間違いじゃない？「寿」を使っても良いケースとは
では、「寿」は年賀状で絶対に使ってはいけないのでしょうか？もちろん、そんなことはありません。特定の目的がある場合には、非常に効果的な言葉となります。
最も代表的なのが、結婚報告を兼ねた年賀状です。「昨年結婚しました」という報告とともに「寿」の文字をデザインすれば、新年のご挨拶と人生の門出の喜びを同時に伝えることができます。写真付きの年賀状などで使われることが多いのは、このためです。
また、「寿」には「長生き」「命が長いこと」という意味もあります。そのため、ご家族の還暦や古希といった長寿のお祝いを伝える際に、親しい間柄であれば使うことも考えられます。大切なのは、「寿」が持つ特定の意味合いと、年賀状で伝えたい内容が合致しているかどうかです。その点を意識すれば、誤解を招くことなく、おめでたい気持ちを効果的に表現できます。
意外と知らない？忌中と年賀状のマナー
お祝いの言葉選びと合わせて、知っておかなければならないのが「忌中（きちゅう）」や「喪中（もちゅう）」の際のマナーです。こちらも、相手への配慮が基本となります。
年賀状は送らないのが基本
ご家族など近親者が亡くなられた場合、新年のお祝い事を控える「喪中」に入ります。この期間は、年賀状を送るのも受け取るのも控えるのがマナーです。その代わりに、事前に「喪中はがき（年賀欠礼状）」を送ります。これは、「喪中のため、新年のご挨拶を失礼させていただきます」ということをお知らせする挨拶状です。相手が年賀状の準備を始める前の、11月中旬から12月上旬までには届くように送りましょう。
もし年賀状が届いたら、送ってしまったら？
では、自分が喪中の時に年賀状を受け取ったり、相手が喪中と知らずに送ってしまったりした場合はどうすればよいでしょうか。
どちらの場合も、焦る必要はありません。年が明けて、松の内（一般的には1月7日まで）が過ぎてから、「寒中見舞い」として返信するのが丁寧な対応です。寒中見舞いでは、「あけましておめでとうございます」といったお祝いの言葉は使いません。
- （自分が喪中で）年賀状を受け取った場合：「ご丁寧な年始のご挨拶をいただきありがとうございました。実は昨年〇月に（続柄）が永眠いたしましたため、年末年始のご挨拶を控えさせていただきました。ご連絡が遅れ申し訳ございません」といった内容で、お礼と事情を伝えます。
- （相手が喪中と知らず）年賀状を送ってしまった場合：「この度はご服喪中とは存じ上げず、年始のご挨拶を差し上げ大変失礼いたしました。〇〇様のご冥福を心よりお祈り申し上げます」といった形で、お詫びとお悔やみの言葉を伝えます。
心を伝える、言葉選びのヒント
今回は、生成AIの回答をきっかけに、年賀状の「寿」という言葉と、忌中のマナーについて考えてみました。ルールやマナーは一見すると堅苦しく感じるかもしれませんが、その根底にあるのは、いつの時代も変わらない「相手を思いやる心」です。
年賀状は、一年に一度、大切な人のことを想いながら準備する特別なコミュニケーションです。生成AIのような便利なツールは、知識を与えてくれますが、最終的にどんな言葉で気持ちを伝えるかを選ぶのは、私たち自身です。相手の顔を思い浮かべながら、その人に合った言葉を選ぶ。そのひと手間が、きっと温かい心の繋がりを生むはずです。新しい年が、皆様にとって素晴らしい一年となりますよう、心からお祈り申し上げます。
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