国際通信の大動脈である海底ケーブル。ニュースでは「断線」や「大容量化」が話題になりますが、実は多くの人が疑問に思うのが「海の底の機器はどうやって動いているのか」「光の信号はどこで増幅されるのか」という点です。ここが分かると、クラウドや動画配信、オンライン会議が安定して届く“裏側のしくみ”が見えてきます。本稿では、海底ケーブルの主役のひとつである中継器に焦点を当て、電力供給と信号増幅の基本を、専門用語をなるべく避けて解説します。
海底ケーブル中継器って何者?
海底ケーブルは、海岸から海岸へと何千キロも伸びる細長い通信路です。途中には一定間隔で「中継器(リピータ)」が置かれ、弱くなった信号を持ち上げたり、監視のための回路に電気を届けたりしています。大まかに言えば、長距離マラソンの給水所のような存在で、信号がバテないよう支える役割です。
電力はどこから?実は陸から“押して”いる
海底の中継器にバッテリーはありません。電力は両端の陸上局から直流で送り込まれます。ケーブルの芯に近い金属の導体が“プラス”、外側の金属シースや海水が“戻り道”の役目を果たし、一本の長い回路ができあがります。ポイントは「一定の電流で押す」こと。数千〜数万ボルトの直流をかけ、流す電流を一定に保つことで、何百台もの中継器が直列につながっていても、それぞれが必要なだけ電力を分け合えます。もし途中で一台が不調でも、電流の通り道を確保するバイパス機構が働き、全体が止まりにくい工夫も盛り込まれています。
なぜ直流なの?
交流だと、長いケーブルがコンデンサーのように振る舞い、電気が“行って戻って”を繰り返すたびに損失が増えます。直流ならこの往復がなく、遠くまで効率よく届けられるため、海底では直流が定番になっています。
光は光のまま強くする:光増幅のしくみ
昔は電気信号に変えて増幅する方式が主流でしたが、今は「光のまま増やす」方式が中心です。中継器の中には、特殊なガラス繊維を使った光増幅器が入っており、ポンプ用の小さなレーザーで弱った信号光にエネルギーを“注入”して元気にします。電気へ変換しないので、速く・低損失で・たくさんの波長(色)のデータを同時に扱えるのが利点です。
どうやって壊れにくくしている?
中継器は圧力に強い金属容器に収められ、深海の高圧や低温、腐食から守られています。ケーブル自体も浅瀬では海底に埋設され、船の錨や漁具からのトラブルを避けます。また、複数の光ファイバー対を用意して迂回できるようにしたり、陸側から常時状態を監視して、異常を早期に察知したりと、運用面の工夫も欠かせません。万一の断線時は、専用船が現場でケーブルを引き上げ、切れた部分を交換・接続します。
クラウドや動画が安定する背景
私たちがクラウドに写真を保存したり、海外の配信を楽しんだりできるのは、この電力供給と光増幅の二本柱が、深海で休まず働いているからです。両端から電力を送る冗長な仕組みや、光のまま増幅する効率の良さが、遅延の少なさや大容量化を支えています。身近なところでは、海底ケーブルのマップを公開するサイトを眺めると、使っているサービスの“海の道”が見えてきて面白いはずです。
これからの進化:省エネと多芯化
最新のトレンドは、一本あたりの信号を無理に強くせず、より多くのファイバーで並行して運ぶ発想(多芯・多対化)。中継器の増幅器も省電力化が進み、同じ電力でより多くのデータを運べる設計が広がっています。結果として、地球規模のデータ需要に、環境負荷を抑えながら応える道が見えてきました。
まとめ:深海の“見えないインフラ”を想像してみる
海底ケーブル中継器は、陸からの直流で安定して動き、光を光のまま賢く増幅する装置です。難しく聞こえる仕組みも、「一定の電流で押して」「弱った光に元気を足す」と捉えればイメージしやすいはず。次に海外のサイトへアクセスしたとき、深海で静かに働く中継器たちに思いを馳せると、通信のありがたみが少しだけ増すかもしれません。
























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