「屋内だと電波が弱い」「5Gの表示なのに奥の部屋で途切れる」。そんな経験はありませんか。実は、周波数の違いが屋内のつながりやすさを大きく左右します。本稿では、800MHz帯などの“プラチナバンド”が屋内で強い理由を、難しい数式を使わずに解説し、日常でできる工夫や設計のヒントまで提案します。結論はシンプルです。低い周波数は“届かせる力”に優れ、高い周波数は“速さと容量”に優れる──この使い分けが、快適な通信のカギです。
プラチナバンドって何?
日本ではおおむね700〜900MHz帯の携帯電話周波数を「プラチナバンド」と呼びます。波長は約30〜40cmと比較的長く、建物の壁や窓、コーナーを越えて届きやすいのが特徴。一方、3.5GHzや4.5GHz、さらにはミリ波のような高い周波数は超高速・大容量に向く反面、障害物に弱く屋内に入りにくくなります。
屋内で強い3つの理由
- 減衰が少ない:同じ距離なら、周波数が低いほど電波は弱まりにくく、受け取れる信号が大きくなります。800MHzと3.5GHzでは、理論上10〜13dBほど低周波が有利になる目安があります。
- 回折で“曲がる”:電波は障害物の“角”で回り込みます。波長が長いほどこの回り込みが効きやすく、廊下の曲がり角や部屋のドア越しにも届きやすくなります。
- 透過しやすい:壁や窓の素材が電波をどれだけ通すかは周波数で変わります。コンクリートや金属膜ガラスは高い周波数ほど通りにくくなる傾向があり、低周波の方が屋内に入りやすいのです。
電波回折の物理をやさしく
水面の波や音が角を回り込むように、電波も“波”なので曲がります。イメージとして、障害物の縁が小さなスピーカーのように振る舞い、新しい波を生み出すと考えるとわかりやすいでしょう。波長(波の長さ)が長いほど、この効果が強くなります。800MHzの波長は約37cm。部屋の出入口や壁の厚みと比べて十分長いので、コーナーを越えて届きやすいのです。逆に、ミリ波のように波長が数mmになると、ほとんど回り込めず、障害物の影になりがちです。
室内で起きていること
屋内では、反射・透過・回折が同時に起き、さまざまな経路から電波が届く「マルチパス」が発生します。低い周波数はこの“寄り道”の影響を受けにくく、安定しやすい傾向があります。日常のコツとしては、窓際や廊下の見通しがよい位置にスマホやホームルーターを置く、金属棚や家電で挟まない、といった配置の工夫が効きます。
高い周波数の役割も重要
「じゃあ全部プラチナバンドでいいのでは?」と思うかもしれませんが、低周波は使える帯域幅が限られ、超高速通信や多数同時接続には向きません。そこで現代のネットワークは、プラチナバンドで“広く確実に届かせ”、3.5GHzなどで“速くたくさん運ぶ”という分担をします。スマホは状況に応じて周波数を束ねて使うため、つながりやすさと速さの両立が可能です。
すぐできる工夫と設計のヒント
- 個人向け:窓際や高い位置に端末を置く、Wi‑Fi通話(VoWiFi)を有効化する、宅内のWi‑Fi環境を整える。キャリア選びでは、利用エリアでのプラチナバンド整備状況をチェック。
- オフィス・店舗:Low‑E金属膜ガラスは電波を遮りやすいので、開口部の配置や素材選定を検討。必要に応じて屋内アンテナ(DAS)やスモールセル、リーキー同軸ケーブルなどのソリューションを導入すると、フロア奥まで均一に電波を届けられます。
- IoT機器:地下やメータールームなどは低周波に強い方式の採用や、中継器・外部アンテナの活用で到達性を高められます。
まとめ:届かせる力と運ぶ力のベストミックス
プラチナバンドは「減衰しにくい」「回折で曲がる」「素材を通りやすい」という特性により、屋内で安定した“届かせる力”を発揮します。一方で、超高速や大容量は高い周波数の得意分野。両者を賢く組み合わせ、必要に応じて屋内対策を行うことで、家でも職場でもストレスの少ない通信環境に近づけます。身の回りの配置の工夫から、建物設計・設備導入まで、できるところから最適化していきましょう。






















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