ドライブレコーダーの映像は、事故やトラブルの「決定的瞬間」をとらえていることが多く、ついSNSにアップして共有したくなります。しかし、その一瞬の投稿が、名誉毀損・プライバシー侵害・著作権侵害など、思わぬ法的トラブルにつながる可能性があります。
この記事では、ドラレコ映像をSNSで公開する際の主な法的リスクと、拡散するときの落とし穴、そしてできるだけトラブルを避けるためのポイントを、なるべく分かりやすく整理していきます。
ドラレコ映像をSNSに上げるときの「3つの主なリスク」
ドラレコ映像の公開で特に問題になりやすいのは、次の3点です。
- 映っている人の名誉を傷つけるリスク（名誉毀損）
- プライバシーを侵害するリスク
- 他人の権利（著作権・肖像権など）を侵害するリスク
ドラレコ映像には、ナンバープレート、運転者の顔、通行人、店舗や建物の看板、車内の会話など、さまざまな情報が含まれています。
これらが「誰のことかわかる形」で、「一方的に悪者扱い」されるような形で拡散されると、法的な問題に発展しやすくなります。
名誉毀損とプライバシー侵害のポイント
名誉毀損（めいよきそん）とは、他人の社会的な評価を下げるようなことを、公に伝えることです。
ドラレコ映像を「危険運転の晒し上げ」として投稿した場合、
- ナンバーや車種から持ち主が特定できる
- コメント欄で特定作業が進み、実名や住所まで拡散される
といった事態になれば、「自分はそんな運転をしていない」「一部だけ切り取られている」と反論され、名誉毀損を主張される可能性が出てきます。
プライバシー侵害も要注意です。
例えば、
- 自宅の出入りや自宅周辺がはっきり映っている
- 子どもの顔がはっきり映っている
- 車内の会話や他人の音声がクリアに録音されている
といった場合、それを不特定多数に公開することは、「私生活を勝手にさらされた」と受け取られてしまうおそれがあります。
「悪質ドライバー暴露」が危ない理由
悪質なあおり運転や危険な割り込みなどを見ると、「これはひどい」「社会のためにも晒すべきだ」と感じるかもしれません。
しかし、制裁目的の暴露（私的制裁）は、とくにトラブルになりやすい行為です。
法律上の問題点としては、
- あなた自身に「加害者を罰する権限」はない
- 映像は事実の一部でしかなく、事情が十分に分からないことも多い
- SNSで拡散されると、必要以上の社会的ダメージを与えかねない
といった点が挙げられます。
「正義感からやっただけ」としても、相手から見れば名誉毀損やプライバシー侵害にあたり、損害賠償などを求められるリスクがあります。
SNSでの「拡散」に潜む落とし穴
自分が最初の投稿者でなくても、他人のドラレコ映像をリポスト・引用・まとめ動画にする行為にも注意が必要です。
- 元の投稿が違法性を含んでいる場合、その拡散行為も責任を問われる可能性がある
- まとめ動画にして広告収入を得ていると、「営利目的」とみなされやすく、権利侵害を主張されやすい
- 編集の仕方次第では、より過激な印象を与え、名誉毀損性が強くなる
「自分はただリツイート（リポスト）しただけ」「すでにバズっていた動画を紹介しただけ」という感覚でも、他人の権利侵害に積極的に関わったと評価される場合があります。
警察や保険会社への提供と、SNS公開は別物
ドラレコ映像は、事故やトラブルがあったとき、
- 警察への証拠提出
- 保険会社への事故状況の説明
など、正当な目的で使うことが想定されています。
このような利用は、通常は法的な問題になりにくい適切な使い方です。
一方で、SNSへの公開は「不特定多数への情報発信」にあたり、法的なハードルが一気に上がります。
「証拠として残す」「しかるべき機関に提出する」と「世界中に公開する」は、まったく別物として考える必要があります。
ドラレコ映像をどうしても公開したいときの工夫
それでも、「危険運転の実態を社会に知ってほしい」「教育目的で公開したい」というニーズもあるかもしれません。
その場合、次のような工夫でリスクを減らせます。
- ナンバープレート・顔・自宅など、個人が特定できる部分をしっかりモザイク処理する
- 場所や時間など、特定につながる情報を書き込みすぎない
- 特定の人物を攻撃するコメントやハッシュタグを付けない
- 「この人は〇〇な人物だ」など、断定的なレッテル貼りをしない
- 映像の一部だけを切り取らず、誤解が生まれにくい編集を心がける
それでも、相手から見て「自分だとわかる」「社会的評価が下がった」と感じれば、トラブルになる可能性はゼロにはなりません。
リスクを完全に避けたいのであれば、「公開しない」「専門家に相談してから判断する」という選択が安全です。
まとめ：ドラレコ映像は「証拠」かつ「個人情報のかたまり」
ドラレコ映像は、事故やトラブルの重要な証拠になる一方で、多くの個人情報を含んだデータでもあります。
そのため、感情に任せてSNSに公開する前に、次の点を一度立ち止まって考えることが大切です。
- 誰かの名誉やプライバシーを傷つけないか
- 自分が逆に訴えられたり、責任を問われるリスクはないか
- 本当に公開が必要なのか、警察や保険会社への提供で足りないか
「正しいことをしているつもり」が、必ずしも法律上も正しいとは限りません。
トラブルを避けるためには、ドラレコ映像を「簡単に拡散してよいものではない」と意識して扱うことが重要です。
この記事へのコメントはありません。