バイクを止めるとき、当たり前のように左側へ「ガチャン」と傾けてサイドスタンドをかけますよね。でも、ふと考えると「なぜ右側じゃないの?」「そもそも、なんで必ず左なんだろう?」という素朴な疑問が湧いてきます。この記事では、そんな身近な疑問をきっかけに、サイドスタンドが左側になった歴史的背景や、今のライディングスタイルとの関係を分かりやすくひもといていきます。
実は、この「左側に立てる」という習慣には、馬が主役だった時代から続く“名残”が色濃く残っています。単なる設計上の都合ではなく、人の動き方や安全性、さらには交通ルールとの関係まで絡み合った結果なのです。
サイドスタンドはなぜ「左側」が基本なのか?
ほとんどの市販バイクでは、サイドスタンドは左側に付いています。右側に付けることは物理的には可能なのに、なぜ左側が「標準」になったのでしょうか。
大きな理由は次の3つに整理できます。
- ライダーが「左側から乗り降りする」という前提がある
- 古くから「人は馬にも左側から乗る」習慣があった
- 左側通行・右側通行など、交通ルールとの相性が良い
つまり、サイドスタンドの位置は、単にバイクの構造だけで決まったものではなく、「人の動き方」と「歴史的な慣習」によって形づくられてきたものと言えます。
馬に乗るときも「左側」から ― 馬車時代の名残
サイドスタンドが左にある理由を語るときによく登場するのが、「馬に乗る人は左側から乗る」という話です。これは決して都市伝説ではなく、長い歴史の中で自然と定着してきた動き方です。
その背景として、よく説明されるポイントがこちらです。
- 多くの人は右利きで、剣や道具を左腰に下げていた
- 左側から馬にまたがると、右側に下げた剣が馬に当たりにくい
- 左足を先にかけて、右足で大きく振り上げる方が右利きには動きやすい
このような事情から、「馬は左側から乗り降りするもの」というスタイルが定着し、その後の馬車や乗り物にも影響していきました。やがて、エンジン付きの二輪車が登場したときも、人は自然と「左側からまたがる」スタイルを引き継いだのです。
その結果、
- 左側に立ってバイクを支えやすい
- 左足でサイドスタンドを出しやすい
- 左側からそのまままたがれる
といった使い勝手の良さから、サイドスタンドは左側に付けるのが標準になっていきました。まさに「馬の左側から乗る文化」が、現代のバイクにも姿を変えて残っていると言えるでしょう。
交通ルールとの関係:左側通行・右側通行との相性
サイドスタンドの位置は、「道路をどちら側を走るか」という交通ルールとも関係しています。日本やイギリスのような左側通行の国では、バイクは道路の左端を走ります。このとき、サイドスタンドが左側にあると、路肩側に倒すように駐車できるため、次のようなメリットがあります。
- 車道側ではなく路肩側へ傾くので、車道に倒れ込みにくい
- ライダーは歩道側(安全側)から乗り降りしやすい
一方、右側通行の国でも、多くのバイクはやはりサイドスタンドが左側です。これは「左から乗り降りする」という人の習慣が世界的に共通していること、そして車両設計が世界共通化していることが影響しています。
つまり、交通ルールの違いによって安全上の細かい有利・不利はあるものの、「左側から乗り降りする → サイドスタンドも左」でほぼ世界的に統一された形になっているのです。
センタースタンドや例外的な設計は?
バイクにはサイドスタンドのほかに、「センタースタンド」と呼ばれる中央で支えるスタンドもあります。センタースタンドは車体をほぼ垂直に保持できるため、メンテナンスや長時間の駐車に便利ですが、
- 車重が重いバイクではかけるのに力がいる
- コストや重量増の理由から、最近は装備しないモデルも多い
という事情もあり、日常使いでは軽く出し入れできるサイドスタンドが主役になっています。
また、一部の特殊なバイクやカスタム車には、右側にサイドスタンドを付けた例も存在します。ただし一般的ではなく、
- 乗り降りの動き方に慣れが必要
- 駐車時の安定性・取り回しが想定と変わる
といった点から、量産車ではやはり左側が標準となり続けています。
知っておきたい「安全なサイドスタンドの使い方」
歴史や由来を知ると、サイドスタンドの扱いも少し違って見えてきます。最後に、日常で気をつけたいポイントを整理しておきます。
- 必ず平らで安定した場所に止める
傾斜がきつい場所や、砂利・土・アスファルトが柔らかい場所では、スタンドが沈み込んで倒れるリスクがあります。 - 駐車後は「前方」へ少し押し出す
ギアを入れて止めた場合は特に、車体を前に軽く押してスタンドにしっかり荷重をかけておくと倒れにくくなります。 - 乗り降りのときは車体を自分側に少し引き寄せてから
左側から乗るときは、自分側に少し傾けておくと安心してまたがれます。反対に、反対側に傾いているときは無理に乗らないようにしましょう。
こうした基本を意識しておくだけで、バイクの取り扱いがぐっと安全でスムーズになります。
「左側から乗る」文化が、バイクの今をつくっている
バイクのサイドスタンドが左側にある理由は、単なる設計のクセではなく、「人は左から乗り降りする」という、馬の時代から続く長い歴史の延長線上にあります。その習慣が自転車やオートバイにも受け継がれ、交通ルールや安全性とも結びつき、いまの形が当たり前になりました。
毎日何気なく出し入れしているサイドスタンドにも、こうした背景が隠れています。そう思ってあらためて愛車を眺めてみると、少しだけバイクが「歴史ある乗り物」に感じられてくるかもしれません。

















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