旅行先のホテルで一息つき、ふとベッドサイドの引き出しを開けてみると、そこに静かに置かれている一冊の本。多くの人が一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。そう、聖書です。特に信仰を持っていない方にとっては、「なぜどのホテルにも聖書が置いてあるのだろう?」「これはホテルのサービスなの?」と、素朴な疑問が浮かんだ経験があるかもしれません。
この習慣は、単なる慣習なのでしょうか。それとも、そこには私たちが知らない深い歴史や理由が隠されているのでしょうか。今回は、この多くの人が抱く「ホテルの聖書」の謎について、生成AIと共にその起源をたどり、意外な真実を探っていきたいと思います。
すべては「旅人の魂を救いたい」という一人の男性の想いから始まった
ホテルの客室に聖書が置かれるようになった歴史は、今から100年以上前の1898年にまで遡ります。この習慣を始めたのは、「ギデオン協会(The Gideons International)」というキリスト教系の団体です。驚くべきことに、この活動はたった二人のセールスマンの出会いから始まりました。
ある日、出張でウィスコンシン州のホテルに宿泊しようとした二人のクリスチャン、ジョン・H・ニコルソンとサミュエル・E・ヒルは、ホテルが満室だったため相部屋で一夜を共にすることになりました。二人は初対面でしたが、共に信仰を持つ者として意気投合し、旅の途中で孤独や不安を感じる多くのビジネスマンたちのために、何か心の支えになることはできないかと考えました。
そして翌年、彼らは仲間と共に「ギデオン協会」を設立します。その目的は非常にシンプルで、「旅をする人々が気軽に聖書に触れられるように、ホテルの客室に無料で聖書を寄贈する」というものでした。彼らの活動は、旅人の魂に安らぎと希望を届けたいという、純粋な善意から始まったのです。
なぜホテルに?ギデオン協会とホテルの意外な関係
では、なぜ彼らは配布先として「ホテル」を選んだのでしょうか。それは、ホテルが「人生の交差点」のような場所だからです。
出張中のビジネスマン、家族旅行を楽しむ人々、人生の岐路に立ち一人で考え込む人など、ホテルには様々な背景を持つ人々が訪れます。特に見知らぬ土地で一人過ごす夜は、心細さや孤独を感じやすいものです。ギデオン協会のメンバーは、そんな時に人々が聖書の言葉に慰めや力を見出すことができると考えました。
この提案は、ホテル側にとっても好意的に受け入れられました。当時、聖書を客室に置くことは、宿泊客への「心遣い」や「おもてなし」の精神を示すものと見なされたのです。また、ホテルとしての品格や信頼性を高める効果もありました。ギデオン協会は聖書をすべて無料で寄贈するため、ホテル側には金銭的な負担が一切かかりません。このような理由から、この活動は瞬く間に全米、そして世界中のホテルへと広がっていきました。これは宗教的な強制ではなく、あくまで「善意のプレゼント」として始まった、心温まる関係性だったのです。
聖書だけじゃない?世界と日本のホテルの備品事情
ギデオン協会が配布している聖書は、実は旧約聖書と新約聖書がすべて含まれているわけではなく、多くは持ち運びやすいように新約聖書に「詩篇」と「箴言」を加えた抄録版です。表紙には、協会のシンボルであるランプと水差しが描かれています。
世界に目を向けると、その土地の文化や宗教によって置かれている本は異なります。例えば、イスラム圏の国のホテルではコーランが、仏教徒の多い国では仏典が置かれていることもあります。また、モルモン教が創設されたユタ州のホテルでは、『モルモン書』が聖書と並んで置かれていることも珍しくありません。これは、その土地を訪れる人々への文化的な配慮の表れと言えるでしょう。
一方、現代の日本では、聖書を置かないホテルも増えてきています。その背景には、国際化が進み、多様な宗教観を持つ宿泊客に配慮するという理由や、スマートフォンの普及で誰もが手軽に聖書アプリなどにアクセスできるようになったという時代背景の変化があります。備え付けの聖書を見る機会は、少しずつ減っているのかもしれません。
生成AIに聞いてみた「聖書は持ち帰ってもいいの?」
最後に、多くの人が一度は考えるであろう疑問、「この聖書、持ち帰ってもいいの?」ということについて生成AIに尋ねてみました。
答えは「多くの場合、問題ありません」。ギデオン協会が寄贈している聖書の目的は、一人でも多くの人に聖書を読んでもらうことです。そのため、聖書の最初のページには「この聖書はギデオン協会によって寄贈されたものです。どうぞお読みになり、お持ち帰りください」といった旨のメッセージが書かれていることがほとんどです。
もしあなたがその聖書を必要とするならば、持ち帰ることはむしろ歓迎されることなのです。協会は、持ち帰られた聖書の分をまた補充し、次の宿泊客のために備えます。ただし、ホテルによっては備品として管理している場合も稀にあるかもしれませんので、心配な場合はフロントに確認してみるのが最も確実です。とはいえ、基本的には「旅人への贈り物」と考えて良いでしょう。
ホテルの引き出しに眠る一冊の聖書。それは単なる備品ではなく、100年以上にわたって旅人たちの心に寄り添ってきた、優しさと思いやりの歴史の証です。次にホテルに泊まる機会があれば、ぜひそのページをめくり、遥か昔の旅人たちに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。




















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