プラセンタ注射は、美容クリニックや婦人科などで「美肌」「更年期症状の緩和」などを目的に広く使われています。しかし、一度でもヒト由来のプラセンタ注射を受けると、日本赤十字社での献血が一生できなくなる、というルールをご存じでしょうか。
「どうして美容や体調のために受けた注射で、献血ができなくなるの？」「危険な治療なの？」と不安に感じる方も少なくありません。
この記事では、その理由や国内での規制の背景を、専門用語をできるだけ避けてわかりやすく解説します。
プラセンタ注射ってそもそも何？
プラセンタとは、妊娠中に赤ちゃんを包み、栄養を届ける「胎盤」のことです。
日本で医療機関が使うヒト由来プラセンタ注射薬の多くは、更年期障害や肝機能障害の治療薬として承認されており、美容目的には「保険外」で使われるケースも見られます。
プラセンタには、たんぱく質、アミノ酸、成長因子など、体を整えるのに役立つ成分が含まれているとされ、
・肌のハリやうるおいを保ちたい
・肩こりや疲れを軽くしたい
・更年期のゆらぎを少しでも楽にしたい
という理由で、定期的に注射を続ける人もいます。
なぜプラセンタ注射で献血ができないのか
献血ができなくなる一番大きな理由は、「変異型クロイツフェルト・ヤコブ病（vCJD）」という、きわめてまれだけれど重い病気のリスクを、完全にはゼロにできないからです。
変異型クロイツフェルト・ヤコブ病は、いわゆる「牛海綿状脳症（BSE）」、いわゆる「狂牛病」と関係があるとされる病気です。
この病気は、感染してもすぐには症状が出ず、かなり長い時間を経てから発症すると考えられています。そして、現在の医療では、発症前の段階で簡単に検査して見つける方法が確立されていません。
プラセンタ注射に使われる原料（胎盤）は、厳格な検査や処理を受けており、理論的なリスクは非常に低いとされています。それでも、「ゼロではないかもしれない」と考え、「万が一」を避けるために献血を控えてもらうという考え方がとられているのです。
国内規制と安全対策の考え方
日本で医療用プラセンタ注射を製造・販売するには、厚生労働省の承認が必要です。
製造メーカーは、原料となる胎盤の提供元の安全性確認、ウイルスなどの検査、製造工程での不活化（病原体を弱める処理）など、厳しい基準に沿って管理を行っています。
それでも、「輸血に使う血液」という視点では、安全性によりいっそうの配慮が求められます。血液製剤は、多くの患者さんの体内に直接入るものなので、国としては「限りなくゼロに近いリスクもできるだけ避ける」という姿勢をとっています。
その結果として、プラセンタ注射を受けた人だけでなく、
・過去に下垂体ホルモン製剤を使ったことがある人
・一定期間、BSEの発生した国に長期滞在していた人
なども、献血を制限されることがあります。
どれも「本人の健康にただちに問題がある」というよりは、「輸血を受ける他人を守るための慎重な対応」と考えると理解しやすいかもしれません。
プラセンタ注射は危険なの？
献血ができなくなると聞くと、「それだけ危険な注射なのでは？」と感じるかもしれませんが、これは少し誤解を招きやすいポイントです。
国内で使われているヒト由来プラセンタ注射薬は、長年、医療用として使われてきた実績があり、重大な健康被害の報告はごく限られています。
ただし、
・注射部位の痛みや腫れ
・アレルギー反応
・まれな副作用
といったリスクはゼロではなく、どんな医薬品にも共通する注意点が存在します。
つまり、「献血できなくなる＝危険な治療」ではなく、「極めてまれな可能性にも備えた社会的な安全策」と理解するのが近いイメージです。
受ける前に知っておきたいポイント
プラセンタ注射を検討している方は、次の点をあらかじめ押さえておくとよいでしょう。
- 一度でもヒト由来プラセンタ注射を受けると、献血は原則一生できない
「今回はお試しだから」と軽く考える前に、将来献血をしたいと思う可能性も含めて検討しましょう。 - 情報提供や同意書の内容をしっかり読む
多くの医療機関では、プラセンタ注射を行う前に、献血制限や副作用についての説明があります。わからない点は、その場で遠慮なく質問しましょう。 - サプリや美容ドリンクとの違いを理解する
市販のプラセンタサプリやドリンクは、主に動物由来（ブタ・ウマなど）で、献血制限の対象にはなっていません。注射に使われる「ヒト由来プラセンタ」とは扱いが大きく異なる点に注意してください。
これからの美容医療との付き合い方
美容や健康のための選択肢は年々増え、プラセンタ注射もその一つです。
大切なのは、「なぜ献血できなくなるのか」「国内でどのように管理されているのか」といった背景を理解したうえで、自分にとって納得できる選択をすることです。
もしプラセンタ注射に不安がある場合は、
・ビタミン点滴や高濃度ビタミンCなど、別の美容点滴
・生活習慣や睡眠、栄養バランスの見直し
・スキンケアや他の美容施術の組み合わせ
など、ほかの方法も含めて医師と相談してみるとよいでしょう。
プラセンタ注射そのものを「良い」「悪い」と単純に決めつけるのではなく、メリットと制限事項をセットで理解し、自分の価値観に合った選択をすることが、これからの美容医療との上手な付き合い方と言えます。
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