「せっかく勉強したのに、数日たつとほとんど覚えていない…」。
多くの人が感じるこの悩みを、グラフで分かりやすく示したのが「エビングハウスの忘却曲線」です。そして最近は、この忘却のしくみをヒントに「復習のベストタイミング」を考える学習法が、受験や資格取得の世界でも注目されています。
この記事では、忘却曲線の基本的な考え方と、そこから導き出される「効率のよい復習タイミング」を、なるべく専門用語を避けてわかりやすく解説します。
エビングハウス忘却曲線とは？かんたん解説
エビングハウス忘却曲線は、19世紀の心理学者ヘルマン・エビングハウスが行った「どのくらいの速さで人は忘れるのか」という実験から生まれたものです。
彼は意味のない文字列をたくさん覚え、その後どれくらい忘れたかを時間ごとに測定しました。その結果、次のような特徴が見えてきました。
- 覚えた直後からどんどん忘れていく
- 特に「最初の24時間」での忘却が大きい
- その後は少しずつゆっくり忘れていく
よく言われる目安としては、
「1日たつと、内容の半分以上を忘れてしまうこともある」
といったイメージです。
もちろん、実際の数字は人や内容によって違いますが、「放っておくと、思った以上のスピードで忘れてしまう」という事実を、視覚的に教えてくれるモデルだと考えるとよいでしょう。
忘却曲線から導かれる「復習タイミング」の考え方
忘却曲線のいちばん大事なポイントは、「忘れていく前に、うまく復習すると忘れにくくなる」というところです。
一度覚えたことを、時間をあけて何度か復習すると、脳は「これは大事な情報だ」と判断し、より長く保持しようとします。これが「間隔反復（スパイスト・リピティション）」と呼ばれる考え方です。
一般的に言われる「おすすめの復習タイミング」の例は、次のようなものです。
- 1回目の復習：覚えたその日（できれば数時間以内）
- 2回目の復習：1日後
- 3回目の復習：3日〜1週間後
- 4回目の復習：2週間〜1か月後
ポイントは、「復習の間隔を少しずつ広げていく」ことです。こうすることで、復習の回数はそこまで多くないのに、記憶の定着度はぐっと高まります。
「科学的根拠」はどこにあるのか？
忘却曲線や最適な復習タイミングの考え方には、記憶研究や学習心理学の知見が土台としてあります。
たとえば、次のようなポイントが記憶の定着に関係していると考えられています。
- 脳は「くり返し現れる情報」を重要だとみなす
一度きりの情報より、何度も目にする情報のほうが長期記憶に移りやすい。 - 少し忘れかけたタイミングで思い出すと、記憶が強くなる
答えをただ読むより、「なんだっけ？」と考えてから思い出したほうが、記憶が残りやすい。 - 時間をあけて学習すると、脳内で情報が整理されやすい
一気に詰め込むより、間隔をあけて学ぶほうが効率的になりやすい。
つまり、「いい感じに忘れかけた頃に復習する」と、脳が「思い出そう」とがんばるため、その記憶がより強固になる、というイメージです。
忘却曲線を、実際の勉強にどう生かすか
理屈を知っても、実際に続けられなければ意味がありません。ここでは、日常の勉強に取り入れやすい工夫をいくつか紹介します。
1. 「復習カレンダー」をあらかじめ決めておく
新しいことを学んだら、その日をスタートとして、先ほどの目安に沿って復習日を書き込んでおきます。
- 勉強した日：その日の寝る前にもう一度見返す
- 1日後：前日の内容をざっとチェック
- 3日〜1週間後：重要ポイントだけ問題形式で確認
- 2週間〜1か月後：本当に覚えているかテストしてみる
紙の手帳でも、スマホのカレンダーでも構いません。「いつ復習するか」をあらかじめ決めておくことで、「気がついたら何も復習していなかった」を防ぎやすくなります。
2. 復習は「全部」ではなく「要点だけ」でOK
毎回すべてをやろうとすると、時間がかかって挫折の原因になります。復習では、次のくらいの軽さを目安にすると続けやすくなります。
- 赤シートやマーカー部分だけを確認する
- 前回まちがえたところだけを解き直す
- 「自分で要約した1ページメモ」だけを見返す
「完璧にやる」よりも、「細く長く続ける」ほうが、忘却曲線とうまく付き合ううえでは効果的です。
3. 「問題を解く」復習で記憶を強くする
ただ教科書を読むよりも、「問題を解く」「自分で説明してみる」といったアウトプット型の復習のほうが、記憶が残りやすいとされています。
おすすめは、次のようなやり方です。
- 単語カードで「見て→答える」をくり返す
- 覚えたい内容を、誰かに説明するつもりで声に出してみる
- ノートを見ずに、白紙に要点を書き出してみる
これらはすべて、「思い出そうとする」行為を通じて、脳に強い刺激を与える方法です。
忘却曲線は「脅し」ではなく「味方」にできる
エビングハウスの忘却曲線を見ると、「どうせすぐ忘れるなら勉強してもムダなのでは」と感じるかもしれません。しかし、考え方を変えると、これはむしろ「うまく復習すれば、覚えたいことはちゃんと残せる」という希望の曲線でもあります。
大事なのは、「人間は忘れる生き物だ」という前提に立って、そのうえで「忘れ切る前に、少しだけ復習する」仕組みを日常に組み込むことです。
毎日長時間の勉強をする必要はありません。短い時間でも、「タイミングのよい復習」を意識するだけで、学びの効率は驚くほど変わってきます。忘却曲線を味方につけて、ムリなく、ムダなく、自分なりの学習スタイルを作っていきましょう。
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