飲食店を予約していたのに、うっかり忘れてしまったり、急な予定変更で行けなくなったり――そんな「無断キャンセル」をめぐって、「高額なキャンセル料を請求されたけど、本当に払わないといけないの?」という疑問を持つ人は少なくありません。一方で、お店側にとっても、仕入れや人件費を前提に予約を受けている以上、「無断キャンセルは大きな損失」になるのも事実です。
この記事では、「無断キャンセル料にはどんな法的根拠があるのか」「どこまでが妥当な金額なのか」といったポイントを、できるだけ専門用語を避けながら整理し、トラブルになりにくい考え方や行動のヒントを探っていきます。
飲食店の予約は「口約束」でも契約になる?
まず押さえておきたいのは、飲食店の予約は、電話やネット予約のような「口約束」であっても、法律上は「契約」とみなされるという点です。
たとえば、
- 日時・人数・コース内容などが合意されている
- お店側がそれに合わせて席を確保し、仕入れやスタッフのシフトを組んでいる
といった状況であれば、「お店は料理や席を用意する」「お客さんはその代金を支払う」という約束が成立していると考えられます。紙の契約書や署名がなくても、予約のやり取り自体が契約の内容を示すものとして扱われるのが一般的です。
無断キャンセル料の法的な考え方
では、予約したのに無断で来店しなかった場合、お店はどのような根拠でキャンセル料を請求できるのでしょうか。大きく分けると、次の2つの考え方があります。
①「損害賠償」としてのキャンセル料
一つ目は、「無断キャンセルによってお店が被った損害を補うお金」という考え方です。具体的には、
- その予約のために仕入れた食材代
- スタッフを増やしていた人件費
- 他のお客さんを断ったことによる売上の機会損失
などが「損害」として考えられます。ただし、「どこまでを損害とみなせるか」「いくらまで請求できるか」はケースバイケースで、裁判でもよく争点になります。
②「キャンセルポリシー(約束)」としてのキャンセル料
二つ目は、予約の時点で「キャンセル料○%」と説明されていた場合、それが契約内容の一部になっているという考え方です。
たとえば、
- 予約サイトの画面に「前日キャンセルは50%、当日キャンセルは100%」と表示
- コース予約時に「当日キャンセルは全額頂戴します」と口頭説明
などがあると、「あらかじめ決めていたルールに従って請求している」と主張しやすくなります。ただし、たとえ事前に示されていても、あまりにも高額すぎると「お客さんに不利すぎる約束」として無効と判断される可能性もあります。
「いくらなら妥当?」実際に争いになりやすいポイント
キャンセル料をめぐる一番の争点は、「妥当な金額かどうか」です。裁判例などを参考にすると、判断のポイントはおおむね次のようになります。
実際のコストと売上の見込み
キャンセルが出たことで、
- 食材を廃棄せざるを得なかった
- コース料理の準備がすでに進んでいた
- 時間帯的に代わりのお客さんを入れるのが難しかった
といった事情があれば、キャンセル料の必要性は強まりやすくなります。逆に、
- まだ仕入れ前だった
- すぐに別のお客さんで席が埋まった
といった場合には、「全額請求はやりすぎではないか」と判断される可能性もあります。
キャンセルポリシーの周知度
予約時に、キャンセル料に関する説明がしっかり行われていたかどうかも重要です。
- ウェブ予約画面にわかりやすく表示されていたか
- 電話予約なら、スタッフがきちんと伝えていたか
- 常識的に見て理解しやすい内容・金額だったか
このような点が、後からトラブルになった際の判断材料になります。
一律「100%請求」は必ずしも認められない
特に問題になりやすいのが、「何日前でもキャンセルは全額負担」といった厳しすぎるルールです。裁判所は、
- 予約日までの残り日数
- お店の規模・価格帯
- コースの内容
- 代替客を確保できる可能性
といった事情を総合的にみて、「お店の損害を大きく超えるキャンセル料は無効」と判断することがあります。つまり、「ルールに書いてあるから必ず全額取れる」とは限らないのが実情です。
お客さん側が気をつけたいポイント
では、私たちお客さん側は、どのような点に注意すれば、トラブルを避けやすくなるでしょうか。
- 予約前にキャンセルポリシーを確認する
ネット予約なら必ず表示をチェックし、電話予約でも気になる場合は「キャンセル料はどうなっていますか?」と聞いておくと安心です。 - 行けないとわかった時点で、すぐに連絡する
早めに伝えれば、お店も別のお客さんを入れやすくなり、キャンセル料が軽くなる、あるいは不要で済むケースもあります。 - やむを得ない事情は正直に伝える
急病や事故、交通機関の大幅な遅れなど、どうしても避けられない事情がある場合、その内容を丁寧に説明することで、お店側も柔軟に対応してくれる可能性があります。
お店側がトラブルを避けるための工夫
一方で、お店側も「無断キャンセルをゼロにはできない」という前提で、トラブルを減らす工夫が求められます。
- わかりやすいキャンセルポリシーの表示
予約サイト、SNS、店頭などに、
「何日前からいくら発生するのか」「コースと席だけ予約で違いがあるか」などを、シンプルに書いておきましょう。 - 予約前日のリマインド連絡
SMSやメール、電話での確認を行うことで、単純な「うっかり忘れ」を減らすことができます。 - コース予約のみキャンセル料を設定する
食材ロスが出やすいコース料理に限ってキャンセル料を設定し、単品利用の席予約は柔らかめのルールにするなど、メリハリをつける方法もあります。 - 実費ベースの柔軟な請求
「とりあえず全額請求」ではなく、「実際に発生したコスト」や「予約時間帯の特性」を踏まえて金額を調整することで、納得感のある解決につながりやすくなります。
法律だけで割り切れないからこそ、「お互いさま」の意識を
飲食店の無断キャンセル料は、単純に「払うべきか・払わなくてもいいか」という二択では割り切れない問題です。法律上は、
- 予約は契約として扱われる
- お店に現実的な損害があれば、一定のキャンセル料は認められやすい
- ただし、著しく高額なキャンセル料は無効とされることもある
というのが大まかな枠組みです。
とはいえ、実際のトラブルは、体調不良や家族の事情など、さまざまな背景を抱えていることがほとんどです。お店側もお客さん側も、まずは冷静に事情を説明・理解し合い、「どの程度なら負担を分け合えるか」を話し合う姿勢が、円満な解決への近道といえるでしょう。
無断キャンセルは、お店にとっても、他の予約希望者にとっても、決して小さくない影響を与えます。だからこそ、予約を入れるときは「その時間と席を借りる約束をしている」という意識を持ち、難しくなったときは早めの連絡を心がけたいところです。























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