「海底ケーブルが切れたら、インターネットは止まってしまうの?」――そんな疑問を持ったことはないでしょうか。私たちのオンライン生活は、実は海の底を走る細いガラスの線に大きく頼っています。この記事では、海底ケーブル断線が世界の通信に与える「意外な影響」を、できるだけ専門用語を避けながら解説していきます。
海底ケーブルってそもそも何?
海底ケーブルとは、大陸と大陸、国と国をつなぐために、海の底に敷かれた通信ケーブルのことです。
中にはガラスでできた「光ファイバー」が通っていて、光の点滅としてデータが送られます。
意外かもしれませんが、国際通信の9割以上は、衛星ではなくこの海底ケーブルを通っています。
動画配信、オンラインゲーム、クラウドサービス、国際電話、海外とのメールやチャットなど、私たちが「当たり前」に使っている多くのサービスが、海の底のケーブルに支えられているのです。
断線が起こる原因は意外とアナログ
海底ケーブルの断線というと、「地震や津波」といった大災害を思い浮かべる人が多いかもしれません。もちろんそれも原因のひとつですが、実はもっと身近でアナログな理由も多くあります。
- 漁船のイカリがケーブルをひっかける
- 海底での工事や資源採掘による損傷
- 海底地滑りや海流の変化による摩耗
- まれにサメなどの生物がかじるといったケースも報告
こうした要因が重なり、年に何度も世界のどこかでケーブル断線が発生しています。それでも「全面的な大混乱」にならないのには理由があります。
断線してもネットが完全に止まらないのはなぜ?
海底ケーブルは、1本だけで世界をつないでいるわけではありません。
大陸同士や国同士の間には、複数のケーブルが「クモの巣」のように張り巡らされています。
そのため、1本が切れてしまっても、インターネットの世界は自動的に別のルートを探し、迂回して通信を続けようとします。これを「冗長化(じょうちょうか)」と呼びますが、要するに「予備ルートをたくさん用意しておく」という考え方です。
ただし、迂回ルートに通信が集中すると、混雑して遅くなったり、一時的につながりにくくなったりすることがあります。普段は意識しませんが、「なんだか今日は海外サイトが重いな」と感じる影には、どこかの海底ケーブル障害が潜んでいるかもしれません。
クラウドサービスにはどんな影響が出るのか
海底ケーブルの断線は、SNSや動画サイトだけでなく、クラウドサービスにも影響を与えます。
- 海外リージョンを使っているクラウドのレスポンスが悪くなる
- 大容量データのバックアップや同期が遅延する
- 国際的なオンライン会議で音声や映像が途切れがちになる
ただし、多くの大手クラウド事業者は、複数の海底ケーブルや経路を使い分ける仕組みを持っているため、「まったく使えなくなる」事態はできるだけ避けられるように設計されています。
企業側としては、データセンターを複数の地域に分散させたり、バックアップ先を国内・海外にバランスよく配置したりすることで、断線のリスクを減らそうとしています。
意外な影響:通信だけでなく「価格」にも波及
海底ケーブルの障害は、単に「つながりにくくなる」だけではなく、もう少し間接的な影響も持っています。
- 通信コストの上昇
混雑した別ルートを利用することで、通信事業者のコストが一時的に増えることがあります。 - トラフィック制御によるサービス制限
混雑を防ぐため、一部の国際サービスや大容量通信が制限されるケースもあります。 - クラウドや配信サービスの「裏側の負荷」
配信サーバーの配置変更や、経路の最適化作業など、運用担当者の負担が増えることも少なくありません。
私たちの画面上にはあまり出てきませんが、海底ケーブル障害は、通信インフラ全体の「運用コスト」と「負荷分散」にじわじわと影響を与えています。長期的には、こうしたコストがサービス料金に跳ね返る可能性もゼロではありません。
私たちができる備えはある?
海底ケーブルの断線は、私たち個人の力では防げません。ただ、影響を小さくするためにできることはあります。
- 重要なデータはローカルにも保存しておく
完全にクラウド任せにせず、手元のPCや外付けディスクにもバックアップを取る。 - 複数のクラウドサービスを併用する
仕事で使う場合は、サービスを1社に完全に依存しないよう設計しておく。 - オンライン会議の「代替手段」を決めておく
重要な会議は、事前に資料共有をしておいたり、音声通話Onlyのバックアップ手段を用意しておく。
また、企業や組織であれば、国内リージョンと海外リージョンをうまく組み合わせたクラウド構成や、複数回線のインターネット接続など、「一か所に頼りすぎない設計」を考えておくことがポイントです。
これからの課題と、生成AI時代への影響
生成AIのようなサービスは、大量のデータを瞬時にやり取りする必要があります。その多くが海外のデータセンターを利用しているため、海底ケーブルの状態はAIサービスの使い勝手にも直結します。
今後、世界各地にAI専用のデータセンターが増え、海底ケーブルもさらに高性能・大容量化していくと見られています。それでも、「物理的なケーブル」という弱点がある限り、断線リスクがゼロになることはありません。
だからこそ、通信事業者やクラウド事業者は、ケーブルを増やす・経路を多様化する・障害検知を高度化するといった取り組みを続けています。私たちユーザー側は、その上に成り立つ「便利さ」に頼りすぎず、少しだけインフラの存在を意識しておくことが大切かもしれません。
海底の「細い線」が支える日常
海の底を走る、目に見えない一本の線。その断線は、ときに世界の通信を揺るがし、クラウドや生成AIの使い勝手にも影響を与えます。
とはいえ、複数のケーブルと高度な仕組みによって、私たちの生活が一気に止まってしまうことはないよう、世界中の技術者たちが日々工夫を重ねています。
スマホで海外の動画を見たり、クラウドに写真を保存したり、生成AIに質問したり――その裏には、海の底を走る「見えないインフラ」がある。
そんなことを少し思い出すだけでも、日々の通信やクラウドサービスが、これまでとは少し違って見えてくるかもしれません。





















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