「勉強したのに、次の日には半分くらい忘れている気がする」「仕事の研修内容が、時間がたつとあいまいになる」――そんな悩みを持つ人は少なくありません。
実は、その記憶を助けるシンプルな方法のひとつが「20分の昼寝」です。
短時間の昼寝が、どのように記憶の定着を助けているのか。その脳内で起きているプロセスを、できるだけやさしい言葉でひも解いていきます。
20分昼寝が「ちょうどいい」と言われる理由
昼寝は長すぎると、起きたときに頭がぼーっとしたり、夜の睡眠に影響したりします。
そこでよく言われるのが「20分前後」の昼寝。このくらいの短い睡眠だと、深い眠りに入りきる前に目が覚めるため、スッキリ起きやすいのが特徴です。
睡眠には「浅い眠り」と「深い眠り」があり、20分ほどの昼寝は主に「浅い眠り(ノンレム睡眠のごく初期〜レム睡眠手前)」の時間帯にあたることが多くなります。
浅い眠りのあいだに、脳は「さっきまで入ってきた情報を整理する」作業に取りかかりやすくなると考えられています。
脳の“メモ帳”と“本棚”の関係
記憶の話でよく登場するのが「海馬(かいば)」という脳の部位です。
海馬は、たとえるなら「今日の出来事や学んだことを一時的に保存しておくメモ帳」のような役割を担っています。一方で、大事な情報を長くしまっておく「本棚」のような役割をするのが、大脳皮質(だいのうひしつ)と呼ばれる広い領域です。
覚えたばかりの情報は、最初は海馬というメモ帳に書き込まれます。しかし、メモ帳にはページ数の限りがありますよね。
海馬が情報でいっぱいになると、新しいことを覚えにくくなり、古いメモが消えやすくなっていきます。
ここで登場するのが「睡眠」です。
眠っているあいだに、海馬のメモ帳から大脳皮質の本棚へ、情報を少しずつ移し替える作業(これを「記憶の固定」や「記憶の定着」と呼びます)が進むと考えられています。
20分昼寝中に脳内で起きていること
では、20分くらいの短い昼寝でも、その記憶の引っ越し作業は進むのでしょうか。
さまざまな研究から、「短時間の昼寝でも、海馬の負担を軽くし、覚えたことを整理する効果がある」と示唆されています。
ポイントは次の3つです。
- 情報の“ゴチャゴチャ”を軽くする:短い昼寝の間に、脳はさきほど入ってきた情報をざっくりと分類し、「重要そうなもの」「そうでもないもの」を仕分けし始めます。
- 海馬の空き容量をつくる:重要と判断された情報は、徐々に大脳皮質側に送られていき、海馬のメモ帳に少し余裕が生まれます。
- 注意力・集中力を回復させる:疲れてぼやけていた頭がクリアになり、「同じ時間勉強しても、効率が上がった」と感じやすくなります。
このようなプロセスが重なることで、「20分昼寝をはさんだグループの方が、昼寝をしなかったグループよりも、テストの成績が良かった」といった結果が報告されている研究もあります。
実際にどう取り入れればいい?
20分昼寝を「記憶の味方」にするためのポイントを、日常に落とし込みながら整理してみましょう。
- タイミングは昼〜午後の早い時間:たとえば、12〜15時くらいまでの間。あまり遅い時間だと、夜の眠りが浅くなる場合があります。
- 時間は15〜20分程度:アラームをセットし、長くても30分以内に区切ると、起きたあとにスッキリしやすくなります。
- 「横になる」がベストだが、座ったままでもOK:職場などで難しい場合は、椅子にもたれかかって目を閉じるだけでも、脳の休息には役立ちます。
- 昼寝前に一度「復習」しておく:覚えたい内容(単語、資料、プレゼン内容など)をサッと見直してから眠ると、その情報が記憶として扱われやすくなります。
カフェインと合わせる「コーヒーナップ」という裏ワザ
少し応用編として、「コーヒーナップ」と呼ばれる方法もあります。
これは、昼寝の直前にコーヒーやお茶など、適量のカフェインをとってから20分ほど眠るというものです。
カフェインは、飲んでから効き始めるまでにおよそ20〜30分かかると言われています。
そのため、「カフェインを飲む → すぐに昼寝 → 20分後に起きる頃にカフェインが効き始める」という流れになり、起きたときにスッキリしやすくなる、という考え方です。
ただし、カフェインに敏感な人や、夕方以降だと夜の睡眠に響きやすい人もいます。
試す場合は、「自分の体質」や「その日の予定」と相談しながら、少量から様子を見るようにしてください。
20分昼寝は「頑張らない記憶術」
暗記や勉強というと、「根性で長時間やる」「眠くてもがまんして続ける」といったイメージがあるかもしれません。
しかし脳の仕組みから見ると、むしろ「短く集中して学ぶ → 20分ほど昼寝や休憩をはさむ → もう一度復習する」というサイクルのほうが、記憶の定着には合理的です。
20分昼寝は、特別な道具もお金もほとんどいりません。
イスと少しの時間、そして「ちょっと目を閉じる勇気」さえあれば、誰でも今日から試すことができます。
毎日の生活の中で、無理を重ねて覚えようとするのではなく、「脳が働きやすい環境を整える」という発想に切り替えてみる。その第一歩として、20分の昼寝を取り入れてみてはいかがでしょうか。























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