生成AIが語る女性服のボタンが左の理由は侍女が着せ付けた名残

生成AIが語る「女性服のボタンはなぜ左？」という定番説

女性服のボタンが「右前ではなく左前」になっている理由として、生成AIに質問すると、多くの場合「昔は侍女が着せ付けていた名残」という答えが返ってきます。もっともらしく聞こえますし、ファッション雑学として広く語られているので、「そういうものなんだ」と受け入れている人も多いでしょう。
しかし、本当にそれだけが理由なのでしょうか。この記事では、この有名な説を入り口にしながら、ほかの可能性や歴史的背景もあわせて整理し、「女性服のボタンが左」の謎を少し立体的に眺めてみます。

定番説：侍女が着せ付けたから「左前」が便利だった？

よく語られるのは次のようなストーリーです。

• 19世紀のヨーロッパでは、上流階級の女性は自分で服を着ず、侍女が着せ付けることが多かった
• 侍女は女性の正面に向き合ってボタンを留める
• そのときに、侍女から見てボタンが右側についていた方が留めやすい
• 着る本人から見ると「左側にボタンがある」配置になる

この説は、当時の生活スタイルをイメージすると納得感があります。実際、ドレスには背中側にたくさんボタンやホックがついているものもあり、自分一人では着るのが難しいデザインも珍しくありませんでした。
ただし、歴史的な文書や資料で「侍女が着せやすいように左前にした」と明言しているものは多くなく、“もっともらしいけれど決定打に欠ける” 説というのが実際のところです。

ほかにもある、ボタンが左になったとされる理由

侍女説だけでは説明しきれない部分を補うように、いくつかの説が併存しています。代表的なものを見てみましょう。

1. 授乳や育児に合わせたという説

育児中の女性は、赤ちゃんを左腕で抱くことが多いと言われます。右手の方が器用な人が多く、右手を空けておきやすいからです。
このとき、服の前立て（ボタン部分）が左側についていた方が、右手で簡単に開け閉めでき、授乳がしやすいのではないか、という見方があります。
こちらも「なるほど」と感じる一方で、実際に授乳用の機能が意識されたデザインが主流になったのは比較的最近とも言われ、歴史のずっと最初の理由としては弱いという指摘もあります。

2. 乗馬スタイルや武器との関係という説

男性服のボタンが右前になった理由として、「多くの男性が右利きで、剣や銃を右手で扱ったため」という説があります。右側を空けて素早く武器を抜きやすくする、風を受けにくくするなど、軍服や乗馬服由来の説明です。
この延長で、女性は乗馬のときに「横乗り（サイドサドル）」をすることが多く、風や泥を避ける都合で、布の重なり方向（打ち合わせ）が男性と逆になったのではないか、という考え方があります。
ただ、これも時代や地域でスタイルが違うため、「一部ではそうだった可能性がある」程度にとどまりがちです。

3. 単純に「男女で見分けやすくするため」説

仕立てや工業化が進み、大量生産される衣服が増えると、パッと見でメンズかレディースか判断できる記号があると便利です。
そこで、もともと歴史的な経緯で少し違いがあった前立ての向きを、「男性＝右前、女性＝左前」として規格のように固定していった可能性があります。
もともとの理由は曖昧でも、「違いがあること自体」が意味を持つようになった、という見方です。

ボタンの左右だけで「性別」を決めつけなくていい時代

現在では、ユニセックスの服やジェンダーレスファッションも一般的になりつつあります。
カジュアルなシャツやジャケットは、男女どちらが着ても違和感のないパターンで作られていることも多く、ボタン位置にあまりこだわらないブランドも出てきました。

また、日本の着物を思い出してみると、「右前・左前」は生活と文化に密接につながったルールでもあります（着物の場合は「右前」が生きている人の着付け）。
一方で、洋服のボタン位置は、日常生活で混同して困るほどの意味合いは薄く、「なんとなくの伝統」や「慣習」として残っている側面が強くなっています。