「あの時、たしかに『やる』って言ったじゃないか!」「いや、そんな約束はしていない!」
友人との些細なやり取りから、ビジネス上の重要な取引まで、私たちの周りには「言った、言わない」のトラブルが溢れています。「口約束なんて、しょせん口約束。法的な効力はないでしょ?」そう思っている方も少なくないのではないでしょうか。
しかし、法律の世界では、その常識が必ずしも通用しないのです。実は、私たちが日常的に交わす「口約束」も、一定の条件を満たせば、契約書と同じくらい強力な法的拘束力を持つ「契約」として成立します。今回は、そんな少し意外で、でも知っておくと非常に役立つ『口頭での合意でも法律上契約が成立する条件』について、最新の生成AIにも尋ねながら、分かりやすく解説していきたいと思います。
契約は「書面」がなくても成立するのが大原則
まず、大前提として知っておいていただきたいのは、日本の法律(民法)では、契約の成立に必ずしも「契約書」などの書面は必要ない、ということです。これを「契約方式の自由の原則」と言います。
では、何があれば契約は成立するのでしょうか?答えは非常にシンプルで、「申し込み」と、それに対する「承諾」という、お互いの意思表示が合致した時点です。これを法律の世界では「諾成契約(だくせいけいやく)」と呼び、ほとんどの契約がこれに当たります。
例えば、あなたがコンビニで「このおにぎりをください」と店員さんに伝え(申し込み)、店員さんが「はい、120円です」と応じる(承諾)。この瞬間、レジでお金を払う前であっても、あなたとコンビニの間には立派な「売買契約」が成立しているのです。わざわざ「おにぎり売買契約書」にサインなんてしませんよね。このように、私たちの日常は、意識しないだけで無数の口約束による契約で成り立っているのです。
口約束が「契約」になるための3つの条件
それでは、どんな口約束でも法的な契約として認められるのでしょうか?生成AIに尋ねてみたところ、契約として有効に成立するためには、主に3つの重要な条件がある、と整理してくれました。一つずつ見ていきましょう。
1.当事者双方の「申し込み」と「承諾」の意思が合致していること
最も基本的な条件です。「僕のこの自転車を1万円で君に売るよ」という具体的な「申し込み」に対して、相手が「わかった、その自転車を1万円で買うよ」と明確に「承諾」する。このように、双方が「契約を結びたい」という意思を持ち、その内容が一致している必要があります。
逆に、「その自転車、いいね!」「今度売ってくれたら嬉しいな」といった曖昧な相槌や願望を述べただけでは、承諾とは見なされず、契約は成立しません。誰が聞いても「ああ、二人はこの内容で合意したんだな」と客観的に判断できることが重要です。
2.契約内容が具体的で確定していること
次に、契約の「中身」が具体的である必要があります。「何を」「誰が」「誰に」「いくらで」「いつ」といった、契約の骨格となる部分がはっきりしていなければなりません。
例えば、友人同士で「今度、君の車を売ってよ」「いいよ」というやり取りがあったとします。これだけでは、どの車を、いくらで、いつ売るのか全く決まっていません。これでは契約が成立したとは言えません。
しかし、「今ガレージに停めてある赤いスポーツカーを、来月末に50万円で僕に売ってくれる?」「OK、その条件で売るよ」という会話であれば、契約の主要な内容が確定しているため、有効な契約が成立する可能性が非常に高くなります。
3.契約内容が実現可能で、法律や公序良俗に反しないこと
当然のことながら、契約の内容は実現可能なものでなければなりません。「あの月を100万円で売る」といった、物理的に不可能な約束は契約として成立しません。
また、その内容が法律に違反していたり、社会の一般的な道徳観(公序良俗)に反していたりする場合も、その契約は無効となります。例えば、「10万円あげるから、あの店に泥棒に入ってくれ」といった犯罪行為を目的とする約束や、著しく不公正な内容の約束は、たとえ当事者同士が固く合意していたとしても、法的な保護を受けることはできません。
なぜ「契約書」を作るの?口約束のリスクとは
ここまで読んで、「口約束でも契約が成立するなら、わざわざ面倒な契約書なんて作る必要ないのでは?」と思われたかもしれません。しかし、私たちが重要な場面で契約書を作成するのには、明確な理由があります。それは、口約束に潜む大きなリスクを回避するためです。
最大のリスクは、何といっても「証明が困難」であることです。
後になって「言った、言わない」のトラブルが発生し、裁判になったとしましょう。口約束の場合、その約束が存在したことを証明する責任は、「約束はあった」と主張する側にあります。しかし、会話の録音や、やり取りを聞いていた第三者(証人)がいなければ、約束の存在を客観的に証明することは極めて困難です。「水掛け論」になり、結局は泣き寝入りせざるを得ないケースも少なくありません。
また、お互いに悪気はなくても、記憶違いや勘違いからトラブルに発展することもあります。契約書として内容を文字に起こしておくことで、そうした当事者間の認識のズレを防ぎ、お互いの権利と義務を明確にするという重要な役割があるのです。
口約束のトラブルを防ぐための簡単セルフディフェンス
重要な約束を口頭で交わした場合、トラブルを未然に防ぐために、いくつか簡単な対策を打つことができます。
最も手軽なのは、会話の後にメールやLINEなどのメッセージツールで確認の連絡を入れておくことです。「先ほどお電話でお話しした件ですが、〇〇を△△円で来月10日までにお願いする、という内容で相違ございませんでしょうか?」といった一文を送っておき、相手から「はい、その内容で大丈夫です」といった返信をもらえれば、それが立派な証拠となります。
また、正式な契約書でなくても、日付、当事者の名前、合意した内容などをまとめた簡単なメモ(合意書)を作成し、お互いに署名・捺印しておくだけでも、証拠としての価値は格段に上がります。
もちろん、不動産の売買や高額な金銭の貸し借りなど、人生において特に重要な契約については、口約束で済ませるのではなく、必ず専門家(弁護士や司法書士など)に相談の上、正式な契約書を作成するようにしましょう。
口約束も立派な契約。その手軽さの裏にはリスクも潜んでいます。この知識を頭の片隅に置き、大切な約束は「証拠に残す」という意識を持つことが、無用なトラブルから自分自身を守るための第一歩となるでしょう。





















この記事へのコメントはありません。