ゆで卵を作るたびに「今日はツルンと剥けるかな?それともボロボロかな?」と、ちょっとした運試しになっていませんか。実は、ゆで卵の殻の剥けやすさには、卵の鮮度やpH(ピーエイチ)、さらに塩などの調味料が関係しています。ここでは、難しい専門用語はできるだけ避けつつ、「なぜ殻が上手く剥けたり、剥けなかったりするのか?」という素朴な疑問を、科学の視点からわかりやすくひも解いていきます。
ゆで卵の殻がきれいに剥けないのはなぜ?
まず知っておきたいのは、「剥けないゆで卵」にもちゃんと理由があるということです。
- 殻と白身がくっつきすぎている
- 卵が新しすぎる(鮮度が高すぎる)
- ゆで方や冷やし方にムラがある
この中でも、とくに大きなポイントになるのが「卵の鮮度」と「pH(酸性・アルカリ性の度合い)」です。さらに、ゆでるときの水に「塩」や「酢」を入れるかどうかも、結果に影響します。
鮮度が高い卵ほど、実は殻が剥きにくい
「新鮮な卵の方が良さそうなのに、なんで?」と不思議に思うかもしれません。ところが、ゆで卵にかぎっては、採れたてに近い新しい卵は殻が剥きにくい傾向があります。
理由のひとつは、卵の中身の「しまっている度合い」です。鮮度の高い卵は、白身のたんぱく質がキュッと引き締まっていて、殻の内側にある薄い膜(卵殻膜)にピタッと密着しています。そのため、ゆで上がったあとも、この膜と白身が強くくっついたままで、剥こうとすると白身ごと破れてしまいやすいのです。
一方で、卵を数日~1週間ほど置いておくと、少しずつ中の水分が抜けて、卵の中に小さな空気のスペース(気室)ができてきます。すると、殻と白身の間にわずかなすき間が生まれ、剥くときにツルンと膜ごと剥がれやすくなる、というわけです。
pHの変化が白身の「くっつき具合」を左右する
ここで、もう一つのキーワード「pH(ピーエイチ)」が登場します。pHとは、水や液体が「酸性なのか、アルカリ性なのか」の目安を表す数値です。
卵の中でも、時間がたつにつれてpHが少しずつ変化していきます。鮮度の高い卵の白身は、やや酸性寄りですが、保存しているうちに二酸化炭素が抜けて、だんだんアルカリ寄りになっていきます。白身が少しアルカリ寄りになると、たんぱく質の性質が変わり、殻の膜との「くっつき具合」が弱まります。その結果、ゆで卵にしたときに、殻と白身の間がはがれやすくなり、剥きやすくなるのです。
つまり、「鮮度が落ちる=ただ悪くなる」ではなく、「ゆで卵にするにはちょうど良い状態に近づく」とも言えます。もちろん、古くなりすぎると衛生面の問題が出てくるので、賞味期限はしっかり守ることが大前提です。
塩を入れると本当に剥きやすくなるのか?
多くのレシピで、「ゆで卵を作るときは塩を入れる」と書かれています。この塩には、いくつかの役割があると考えられています。
- 殻にヒビが入ったとき、白身が流れ出にくくなる
- 塩分がたんぱく質をギュッと固めるのを助ける
- 殻と白身の間にできる薄いすき間を作りやすくする、という説もある
科学的に「塩を入れる=必ず剥きやすくなる」とまでは断言しにくいものの、塩を入れることで、卵の表面が早く固まり、ヒビが入っても中身がダラダラ出にくくなる効果は期待できます。その結果、殻が余計にガタガタに割れず、トータルで見て剥きやすさにつながる場合はあります。
酢を入れるとどうなる?pHをいじってみる実験
塩と並んでよく聞くのが「ゆでるお湯に酢を入れる」という方法です。酢は酸性なので、卵の表面に触れると、白身のたんぱく質を固めるスピードを上げるはたらきがあります。
酢の効果としては、
- 殻にヒビが入ったとき、すばやく固まって穴をふさぎやすい
- 殻の一部を少し溶かして、目に見えない小さな傷をつくることで、後で殻が割りやすくなる、という説もある
ただし、酢を入れることで「pHが酸性寄りになる=白身が殻にくっつきやすくなる」面もあり、一概に「酢を入れれば剥きやすくなる」とも言い切れません。酢はどちらかというと、「ゆでている最中に白身が漏れ出しにくくなる」「殻に適度なダメージを与える」ことで、間接的に剥きやすさに関わっていると考えられます。
家庭でできる「剥きやすいゆで卵」のコツ
ここまでのポイントを、実際の調理で活かしやすい形にまとめると、次のようになります。
- 「買ってすぐ」の卵より、数日置いた卵を使う
賞味期限内で、冷蔵庫で保存した卵を選びましょう。1週間前後置いた卵は、ゆで卵に向いていると言われます。 - 冷蔵庫から出したら常温に少し戻す
急激な温度差で殻が割れるのを防ぐため、数分~10分ほど常温においてからゆで始めると安心です。 - 水からゆでるか、お湯からゆでるかを決める
殻の剥きやすさにはどちらも一長一短がありますが、毎回同じ方法でゆでると、自分なりの「ベストタイム」が見つけやすくなります。 - ゆでる水に塩をひとつまみ入れる
剥きやすさの決め手というより、「ヒビ対策」「形崩れ防止」としておすすめです。好みで少量の酢を加えるのも一案です。 - ゆで上がったらすぐに冷水でしっかり冷やす
急冷することで、白身がキュッと縮み、殻と膜がはがれやすくなります。氷水を使うとより効果的です。 - 殻にヒビを入れてから水の中で剥く
テーブルなどでコロコロ転がして全体に細かいヒビを入れ、水の中で剥くと、水が殻と膜のすき間に入り込み、つるんと剥けることが多くなります。
科学を知ると、ゆで卵作りがちょっと楽しくなる
ゆで卵の殻が剥けやすいかどうかは、単なる「運」だけでなく、卵の鮮度やpH、水に入れる塩や酢のはたらきが重なり合った結果です。すべてを完璧にコントロールするのは難しいですが、鮮度を少し選んだり、塩を入れてみたり、ゆでた後の冷やし方を工夫したりと、台所でできる小さな工夫はたくさんあります。
「どうしてこうなるんだろう?」という疑問を、こうしたちょっとした科学の視点で眺めてみると、いつものゆで卵作りが、実験のようなワクワクした時間に変わっていきます。次にゆで卵を作るときは、ぜひ鮮度や塩、冷やし方などを意識して、違いを観察してみてください。きっと、「今日はなぜうまくいったのか」が、これまでよりもはっきり見えてくるはずです。



















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