救急外来に行くと、受付のあとに「少しお待ちください」と言われ、あとから来た人が先に診察される場面を見て不安になることがあります。決して「順番を抜かされた」わけではなく、そこには命を守るための優先順位づけ＝「トリアージ」という仕組みが働いています。
この記事では、救急現場で使われる「色タグ（カラーコード）」がどんな意味を持ち、どうやって優先順位が決まるのかを、専門用語をできるだけ避けて解説します。救急外来の仕組みを知っておくことは、不安を減らし、自分や家族の体調に向き合うときの判断にも役立ちます。
救急外来で行われる「トリアージ」とは？
トリアージとは、フランス語で「選別」を意味する言葉で、多くの人が同時に具合が悪くなったときに、どの人から先に診るかを決める仕組みです。災害時や大きな事故だけでなく、普段の救急外来でも行われています。
大きなポイントは、「来た順」ではなく「緊急度の高さ」で診察の順番が決まるということです。命にかかわる状態かどうかを、できるだけ短い時間で見極めるために、医師や看護師が問診やバイタルサイン（血圧・脈・呼吸・意識など）を確認します。
色で分ける優先順位：代表的な4色タグ
トリアージでは、状態の重さごとに色を分けて判断する「色タグ（カラーコード）」がよく使われます。国や施設によって表現が少し違う場合はありますが、代表的な4色は次の通りです。
赤：最優先で治療が必要な「緊急」
赤は「今すぐ治療が必要」な状態を意味します。
- 意識がはっきりしない、呼びかけに反応が弱い
- 呼吸が苦しくて話すのもつらい
- 大量に出血している
- 胸が強く締めつけられるように痛い
こうした場合、たとえ受付をしたのが後であっても、最優先で診察・処置が行われます。待ち時間はほとんどなく、そのまま処置室や集中治療室へ行くこともあります。
黄：できるだけ早く診る「準緊急」
黄は「急ぎだけれど、赤ほどではない」状態です。
- 強い痛みはあるが、意識はしっかりしている
- 出血はあるが止血ができている
- 高熱や激しい腹痛が続いている
赤ほど直ちに危険ではないものの、放置すると悪化する可能性があるため、比較的早めに診察されます。赤の患者さんが連続している場合は、その分だけ待ち時間が長くなることもあります。
緑：待つことができる「軽症」
緑は「待つことができる状態」を指します。
- 会話が普通にできる
- 歩いて来院できる
- 痛みや不快感はあるが、命の危険は少ないと判断される
このグループの人は、重症の人を優先するため、待ち時間が長くなることがあります。ときには数時間待つこともあり、「順番を飛ばされた」と感じやすい場面です。しかし、これは「軽く見られた」のではなく、命にかかわる人を先に守るための仕組みと理解しておくと少し気持ちが楽になるかもしれません。
黒：すでに回復が見込めない状態
黒は「すでに命が尽きている、あるいは医療資源を集中しても回復が極めて難しい」状態を意味します。主に大規模災害や戦場など、「多くの命をどこまで救えるか」を迫られる場面で使われる区分です。
通常の救急外来の日常診療では、黒タグという言葉を目にすることはあまりありませんが、「どんなときでも全員を同じようには助けられない」という、医療の厳しい現実を象徴する色と言えます。
なぜ順番が前後するのか？救急外来の「見えないルール」
救急外来でよくある疑問の一つが、「先に来たのに、あとから来た人が先に呼ばれた」というものです。これは、受付順ではなく、トリアージで決められた「緊急度の順」になっているからです。
たとえば、あなたが緑（軽症）と判断された後に、呼吸が苦しい人（赤）が来院した場合、その人が先に診察されます。これは、ひとりでも多くの命を守るための世界共通の考え方です。
自分が軽症と判断されたからといって、症状が「たいしたことない」と決めつけられたわけではありません。「命の危険性」という物差しで見たときに、優先順位を下げても大丈夫と判断された、という意味です。
私たちにできること：救急外来との上手な付き合い方
トリアージの仕組みを知ることは、救急外来での不安やイライラを減らす助けになります。同時に、日頃から次のような点を意識しておくと役立ちます。
- 「いざというとき」に備え、近くの救急病院や夜間診療の情報を確認しておく
- 症状の経過や持病・服薬中の薬をメモしておき、受付時に伝えられるようにする
- 明らかな命の危険ではない場合、かかりつけ医や休日診療を上手に使う
救急外来は「早い者勝ち」の場所ではなく、本当に危険な人から順に診察する「命の優先レーン」です。トリアージの色タグの意味を知っておくことで、医療現場の考え方に少し寄り添えるようになり、自分や家族が救急を受診するときの心の準備にもつながります。
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