5Gの宣伝では「超高速・超低遅延」がよく語られますが、実際に使ってみると「なんだか電池の減りが早い」「ビルの中に入ると急に遅くなる」と感じることがあります。特に、5Gの中でも高速通信を担う「ミリ波」は、壁に弱く、スマホの電池にも影響しやすいという性質を持っています。
この記事では、5Gミリ波がなぜ壁に弱いのか、そしてそれがどう電池消耗とつながるのかを、なるべく専門用語を避けながら解説します。
5Gの「ミリ波」ってそもそも何者？
5Gと一口に言っても、実は使っている周波数帯がいくつかあります。その中で「ミリ波」と呼ばれるのは、おおよそ30GHz前後の、とても高い周波数の電波です。「ミリ波」という名前は、波の長さ（波長）がミリメートル単位ととても短いことから来ています。
波長が短いと、たくさんの情報をぎゅっと詰め込むことができるため、理論的には「超高速通信」に向いています。その一方で、波長が短いからこその弱点もあります。それが「障害物に弱い」という性質です。
なぜミリ波は壁に弱いのか？意外と単純な物理の話
ミリ波が壁に弱い理由は、難しいように聞こえますが、ざっくり言えば「波が細かすぎるから」です。
- 低い周波数（4Gなど）は、波長が長く、建物や壁を回り込んだり、少し貫通したりしやすい
- 高い周波数（ミリ波）は、波長が短く、壁や人の体などで簡単にさえぎられてしまう
イメージとしては、大きな波（4G）が防波堤を乗り越えてくるのに対して、細かい水しぶき（ミリ波）は防波堤に当たるとすぐに散ってしまう、といった感じです。
また、ミリ波は空気中でもエネルギーを失いやすく、距離が少し伸びるだけで電波が弱くなります。そのため、同じエリアをカバーするのに、4Gよりも多くの基地局が必要になります。これが、屋外では速いのに、屋内やビルの陰に入るとつながりにくい原因の一つです。
「つながりにくい」と「電池の減りが早い」はどうつながる？
では、ミリ波が壁に弱いことと、スマホの電池消耗にはどんな関係があるのでしょうか。実は、スマホは電波が弱くなると、「もっと頑張って届かせよう」と出力を上げようとします。
ポイントは次のような動きです。
- 電波が強いとき：スマホは低い出力でも十分つながるので、消費電力は少なめ
- 電波が弱いとき：スマホは「届きにくい」と判断し、アンテナの出力を上げたり、再送信を繰り返したりする
ミリ波の場合、ちょっとした遮蔽物で電波が急に弱くなりやすいため、「強くなったり弱くなったり」が頻繁に起きがちです。この変動に追いつこうとスマホ側もこまめに調整を行い、その結果として電池をたくさん使ってしまいます。
5Gミリ波の高速通信がかえって電池を食うこともある
もうひとつのポイントは、「高速通信＝短時間で大量のデータをやりとりする」ということです。
- ミリ波が安定しているとき：ごく短時間で大容量のデータをダウンロードできるため、その分通信時間が短くなり、むしろ効率が良い場合もある
- ミリ波が不安定なとき：
・再接続や再送信が増える
・4Gや別の5G周波数との切り替えが頻繁に行われる
・そのたびにスマホ内部の処理が増え、結果として電池を多く消費する
高速道路にたとえると、スムーズに流れているときは一気に目的地まで行けて燃費がいいのに、渋滞や合流を繰り返すと、アクセルとブレーキを頻繁に使うことになり、燃費が悪くなる状況に似ています。
ユーザー側でできる電池節約の小さな工夫
では、ユーザーとして何か対策はできるのでしょうか。劇的に変えることは難しいものの、次のような工夫で電池消耗を少し抑えられる場合があります。
- 5Gが不安定な場所では4G優先設定にする
周囲に5Gミリ波の基地局が少なかったり、屋内で電波が安定しなかったりする場合は、「5G優先」ではなく「4Gのみ」などの設定に切り替えることで、無駄な切り替えを減らせることがあります。 - 高画質ストリーミングを控える
高画質動画や大容量ダウンロードは、電池だけでなくデータ通信量も消費します。特に外出先での利用は、画質設定を一段階落とすだけでもかなり負担が軽くなります。 - 長時間のオンラインゲーム時は充電環境を確保
低遅延が求められるゲームは、5Gのメリットが出やすい一方で、通信と画面描画の両方で電池を消耗します。長時間プレイする場合は、モバイルバッテリーや電源を準備しておくと安心です。
インフラ側の工夫で変わる5Gとの付き合い方
電池の減り方はユーザーの使い方だけでなく、通信インフラ側の設計にも大きく左右されます。今後は次のような工夫が進んでいくと考えられます。
- ミリ波基地局の密度を上げ、エリア内の電波をより均一にする
- ミリ波／Sub-6／4Gなどの切り替えを、スマホに負担が少ない形で最適化する
- スマホ側のアンテナ設計や省電力アルゴリズムを進化させる
こうした改良が進めば、「5Gをオンにしているだけで電池が減る」といった印象は徐々に薄れ、5Gのメリットだけを享受しやすくなっていくはずです。
まとめ：ミリ波のクセを知れば、5Gとの付き合い方が見えてくる
5Gミリ波が壁に弱いのは、「波長が短く、障害物にさえぎられやすい」というシンプルな物理法則に由来しています。そして、その影響で電波が不安定になると、スマホは通信を維持しようと余分な電力を使い、結果として電池の減りが早く感じられることがあります。
一方で、ミリ波が安定して利用できる環境では、むしろ短時間で大量のデータ通信が済み、効率が良くなる側面もあります。今後、基地局の整備やスマホの省電力技術が進めば、「速いけれど電池に厳しい5G」から「速くて電池にも優しい5G」へと姿を変えていくでしょう。
ミリ波の性質を少し知っておくだけで、「なぜここで電池が減るのか」「どう設定すればいいのか」が見えやすくなります。5Gとの付き合い方も、ちょっとした理解と工夫でぐっと快適になるはずです。
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