AirTagなどの小型位置情報タグは、なくし物の発見にとても便利な一方で、「こっそり人につけたらストーカー行為になるのでは？」という不安も生んでいます。実際、国内外でAirTagを悪用した追跡トラブルが報じられており、日本のストーカー規制法との関係が気になる人も多いでしょう。
この記事では、一般の方にもわかりやすい範囲で、「どこからがアウトなのか」「どんな使い方ならセーフなのか」といった法的な境目を整理していきます。
AirTagの「便利さ」と「危うさ」
AirTag自体は、鍵や財布、カバンなどの紛失防止を目的に作られた正規の製品です。仕組みとしては、近くを通ったiPhoneなどの端末を経由して、おおよその場所を特定するという技術が使われています。
ところが、この「持ち物の場所がわかる」という性質は、「人の居場所をこっそり追いかけられる」方向にも転用できてしまいます。たとえば、次のようなパターンが問題になります。
- 恋人や元交際相手の車やカバンに無断でAirTagを入れて移動先を監視する
- 職場の同僚の自転車に仕込み、帰宅ルートや自宅場所を探る
- 興味を持った相手のバッグに忍ばせて、日常の行動パターンを把握する
こうした行為は、道徳的に問題があるだけでなく、一定の場合にはストーカー規制法や迷惑防止条例などに触れる可能性があります。
ストーカー規制法が想定している「つきまとい」とは
日本の「ストーカー行為等の規制等に関する法律」（いわゆるストーカー規制法）は、もともと尾行や待ち伏せ、しつこい電話・メールなどを念頭に作られた法律です。後の改正でSNSなどのメッセージも対象になり、さらに近年は「位置情報による執ような追跡」も問題視されています。
法律上のストーカー行為と認められるためには、おおまかに次の要素がポイントになります。
- 特定の相手に対して行われること（不特定多数ではない）
- 恋愛感情や恨みなどが背景にあること（好意や執着、拒絶されたことへの逆恨みなど）
- つきまとい・監視・監視していると告げる行為を繰り返し行うこと
AirTagを使って、相手の行動を何度も継続して追いかけるような使い方をすれば、「つきまとい・監視」の一種として評価されやすくなります。
AirTag追跡はストーカー行為に当たるのか？
では、AirTagをこっそり相手の持ち物に仕込んだ場合、それだけでストーカー行為になるのでしょうか。ポイントは以下の通りです。
- 相手に知られないように設置し、居場所の把握を繰り返すかどうか
- 恋愛感情や好意、逆恨みなどが背景にあるかどうか
- 相手に恐怖や不安を感じさせる状況になっているか
たとえば、別れた恋人のカバンに内緒でAirTagを入れ、家や職場、立ち寄り先までくり返しチェックしているようなケースは、典型的にストーカー行為になり得ます。また、それを元にして待ち伏せしたり、自宅に押しかけたりすれば、さらに危険度は高まります。
一方で、家族で位置を共有するために、本人の同意を得たうえでAirTagを使うような場面は、通常はストーカー規制法の想定外です。ただし、名目は「見守り」でも、実態として相手にとって過度な監視となり、明確な拒絶の意思が示されているのにやめないような場合には、法的な評価が変わる可能性もあります。
「自分の物だから」は言い訳にならない
AirTagを悪用する人の中には、「追跡している車は自分名義の所有物だから問題ない」と考える人もいます。しかし、法的には「誰の物か」よりも、「誰の行動やプライバシーを監視しているか」が重要です。
たとえば、元配偶者が乗っている車があなた名義だとしても、相手の同意なくAirTagを設置し、生活パターンを細かく追跡していれば、「人」に対するつきまといとして扱われる可能性があります。「所有権がある＝勝手に位置情報を取ってもよい」という考え方は、危険な誤解です。
ストーカー規制法以外の法律に触れる可能性
AirTagの悪用は、ストーカー規制法以外のルールにも関係してきます。
- 各都道府県の迷惑防止条例：執ようなつきまといや待ち伏せ、押し掛けなどを独自に規制している場合があり、その中で「位置情報を用いた追跡行為」が問題となる可能性があります。
- プライバシー権・人格権：相手の生活圏や行動パターンを無断で把握し続けることは、民法上の人格権侵害として損害賠償の対象になる可能性があります。
- 職場での利用：従業員の行動を過度に監視するような目的で位置情報タグを使うと、労働法やプライバシー保護の観点から問題視されることがあります。
つまり、「ストーカー規制法にギリギリ触れなければOK」という発想自体が危険であり、プライバシーや人権全体の問題として考える必要があります。
トラブルを避けるための安全な使い方
AirTagなどの位置情報タグ自体が悪いわけではありません。多くの人にとっては、紛失防止や盗難対策として非常に役立つツールです。大切なのは、次のような「線」を守ることです。
- 他人の持ち物へは、必ず相手の明確な同意を取る
- 恋愛感情や対立関係が絡む場面では、原則として相手に位置情報タグをつけない
- 子どもの見守りにも、年齢に応じて「なぜ使うのか」をきちんと説明する
- イヤがられたり、不安を訴えられたら、すぐに使用をやめる
また、自分が追跡されていないか心配な人は、スマホの「不審なAirTag検出」機能や、専用の検出アプリを活用することも一つの対策です。見知らぬAirTagからの通知が来た場合には、放置せずに設定画面から詳細を確認し、必要に応じて専門機関や警察への相談も検討しましょう。
「便利な道具ほど境界線を意識する」時代
技術が進むほど、法律が想定していなかったような新しい問題が生まれやすくなります。AirTagのような位置情報タグも、まさにその典型例です。日常生活の便利さを享受しつつ、人のプライバシーや安心感を損なわないようにするには、「これは相手にとってどう感じられるだろう？」という視点が欠かせません。
AirTagをはじめとした追跡機能付きガジェットを使う際には、「相手の同意」「繰り返しの監視」「感情的な執着」といったキーワードを一つのチェックリストにしておくと、ストーカー規制法の境界線を越えないための目安になります。便利な技術と人権・プライバシーをどう両立させるかは、これからも社会全体で考え続けるべきテーマと言えるでしょう。
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