「銀行にお金を預けると“安全に保管”してもらえる」。多くの人がそう考えていますが、会計やバランスシートの世界では、このイメージとは少し違う姿が見えてきます。実は、あなたの「預金」は、銀行から見ると「負債」として記録されています。
この事実は、決して怖い話でも裏話でもなく、銀行がきちんと機能するための基本ルールです。ただ、「負債」と聞くとマイナスのイメージがあるため、どうしてそうなるのかが分かりにくいところです。
この記事では、「預金は銀行の負債」という会計上の真実を、できるだけ専門用語を使わず、バランスシート(貸借対照表)を手がかりに整理していきます。
預金が「銀行の負債」になる理由
まずは発想の転換から始めましょう。あなたの立場から見ると、銀行預金は「資産」、つまり自分が持っているお金です。一方、銀行の立場から見るとどうでしょうか。
- あなたは銀行に「お金を預けたつもり」
- 銀行から見ると「あなたからお金を借りた状態」
銀行は、いつでもあなたの請求に応じて、その預金を引き出せるようにしておかなければなりません。これは、あなたに対して「お金を返す義務」を負っている状態と言えます。
会計のルールでは、「将来、誰かにお金やサービスを渡さなければならない義務」のことを「負債」と呼びます。つまり、
預金 = 預けた人に対して、銀行が負っている「返す義務」= 銀行にとっての負債
という位置づけになるわけです。
バランスシートで見る「預金」と「お金の行き先」
銀行のバランスシート(貸借対照表)は、大きく分けて左側が「資産」、右側が「負債」と「純資産」で構成されています。イメージしやすいように、かなりざっくりした形で表すと、次のようになります。
【銀行のバランスシート(イメージ)】 <資産の部(左側)> ・貸出金(企業や個人への融資) ・国債などの有価証券 ・現金・日銀当座預金 など <負債の部(右側)> ・預金(普通預金・定期預金など) ・銀行が発行した債券 など <純資産の部(右側の一部)> ・株主からの出資(資本金) ・内部留保(利益の蓄積) など
ポイントは、あなたが銀行に預けたお金は、銀行の中で「資産」と「負債」の両方に関係しているということです。
- あなたから見た預金:あなたの資産
- 銀行から見た預金:銀行の負債
- 銀行が運用している貸出金や有価証券:銀行の資産
銀行は、預金という「負債」で集めたお金を、融資や投資といった「資産」に変えて運用し、そこで得た利ざや(利息の差)で利益を出しています。
「お金は金庫で眠っているわけではない」
ここで、多くの人のイメージと、実際の仕組みのズレが出てきます。「銀行の金庫に、自分が預けたお金がそのまま保管されている」という感覚を持っている人は少なくありません。
現実には、銀行は預かったお金のほとんどを、貸し出したり、国債を買ったりするために使っています。金庫やATMに置かれている現金は、預金額全体から見ると一部にすぎません。
つまり、銀行の中であなたの「1万円札」が、そのまま別枠で保管されているわけではなく、
- 記録上、「Aさんの預金残高◯円」という数字が残る
- 現金そのものは、他の預金者からの入金や返済などと混ざり合いながら、銀行全体のお金として運用される
といった形になっています。このため、銀行のバランスシートでは「預金」は現金ではなく、「将来返さなければならない約束の金額=負債」として扱われるのです。
「負債=危ない」ではない理由
「預金が負債と聞くと、銀行って大丈夫なの?」と不安に感じるかもしれません。しかし、企業にとっての負債は、必ずしも「危険」や「破綻寸前」を意味しません。
企業は、成長や事業のためにお金を借りることがあります。同じように、銀行は、「預金」という形でお金を調達し、それを使ってビジネス(融資・投資など)を行います。
大切なのは、
- どのくらいの負債を抱えているか(預金の規模)
- そのお金が、どれくらい安全で収益性のある資産に変わっているか(貸出金や有価証券の内容)
というバランスです。これをチェックするために、金融庁や各国の規制当局は、銀行に対して厳しい自己資本規制(一定以上の純資産を持つルール)を課しています。
要するに、「預金=負債」だから危ない、という話ではなく、「負債と資産のバランス」が健全かどうかが重要ということです。
家計と銀行の「鏡合わせ」な関係
預金が銀行にとっての負債だと理解すると、私たちの家計との関係が少しクリアになります。家計のバランスシートを簡単に表すと、次のようになります。
【家計のバランスシート(イメージ)】 <資産> ・現金・預金 ・株・投資信託 ・保険 ・住宅 など <負債> ・住宅ローン ・カードローン ・奨学金 など
ここで、「現金・預金」は家計にとっての資産です。その中の「預金」は、さきほど見たように、銀行のバランスシートでは「負債」にあたります。
つまり、
- 家計の資産(預金)は、銀行の負債
- 家計の負債(住宅ローンなど)は、銀行の資産(貸出金)
という、鏡合わせの関係になっているのです。この視点を持つと、「お金の流れ」が立体的に見えはじめます。
「預金=負債」を知ると何が変わる?
では、この会計上の事実を知ることで、私たちの行動はどう変わるでしょうか。いくつかのヒントを挙げてみます。
- 銀行は「お金を守る金庫」だけでなく、「お金を運用する事業会社」だと意識できる
- 金利が変化する背景(銀行の資金調達コストや運用環境)をイメージしやすくなる
- 家計と銀行、企業、国などのバランスシートがつながっている感覚が持てる
こうした視点を持つことで、「なぜ金利が上がるのか」「なぜ銀行が国債をたくさん持つのか」といったニュースも、数字だけでなく構造から理解しやすくなります。
難しそうに見える金融の話も、バランスシートという「表」を通して眺めてみると、意外なほどシンプルな関係性でつながっていることが分かります。























