ロータリーエンジン復活はロマンだけでなく、電動化時代の差別化策としても注目を集めています。一方で、排ガスや燃費、コスト、耐久性といった現実の壁は依然として高い。鍵は「使いどころを絞ること」と「次世代燃料・電動化との組み合わせ」。本稿では、復活の現実性と課題、そしてマツダが取り得る次の一手を、一般の方にも分かりやすく整理します。
なぜ今「復活」が語られるのか
ロータリーはコンパクトで滑らか、独特の音とフィーリングを持ち、マツダのアイデンティティを象徴する存在です。電動化が主流になる今だからこそ、軽量・小型なエンジンを発電用に使う発想や、合成燃料・水素など次世代燃料との相性の良さが再注目されています。情緒的価値と技術的可能性の両輪が、復活論を押し上げています。
現実的な壁はどこにあるのか
- 排ガス・燃費のハードル：低温時の未燃焼ガスや燃費の不利が課題。厳格化する規制への適合がコストを押し上げます。
- コストと耐久性：アペックスシールや潤滑の管理が難しく、量産規模が小さいと部品や開発費が高止まりしがち。
- 市場性：EVシフトの中で、「なぜロータリーか」を消費者と投資家に納得させる明確な用途提案が必要です。
復活の現実解：使いどころを絞る
- 発電専用（レンジエクステンダー）：エンジンを一定回転・一定負荷で使えば、排ガスや燃費をコントロールしやすく、ロータリーの小型・低振動の利点が生きます。日常はEV走行、長距離は発電で不安を解消する構成です。
- 燃料の多様化：合成燃料やバイオ燃料、水素の活用で、CO2排出の実質削減を狙う。ロータリーは構造上ノッキングに強く、多様な燃料に適応しやすい特性があります。
- 電動化との前提統合：モーターで走り、ロータリーは必要時に発電。エンジン単体の効率を極限まで上げるより、システム全体での省エネを狙うのが現実的です。
- デジタル制御の徹底：高度な燃焼・点火制御、熱管理、状態監視を組み合わせ、信頼性と使い勝手を底上げします。
マツダの次の一手（戦略提案）
商品戦略：
- レンジエクステンダーの横展開：都市型SUVやコンパクト、商用バンなど、EVだけでは不安が残る領域に順次投入。使い方に合わせたバッテリー容量・発電出力の最適化が鍵。
- アイコンスポーツの限定復活：完全新設計のピュアロータリーは時期尚早でも、ハイブリッドと組み合わせた軽量スポーツの限定モデルでブランドを牽引。
- フリート向けソリューション：配送や公共用途に、運行データに基づく最適な電動レンジ提案をセットで提供。
技術ロードマップ：
- 耐久・コスト対策：シール材と表面処理の改良、潤滑の精密制御、熱管理の強化で保証性能を底上げ。
- 燃焼最適化：直噴化や高エネルギー点火、排気の最適設計で低温時の排ガスを抑制。発電用としては作動点を絞り、触媒を素早く活性化。
- マルチ燃料対応：合成燃料・水素での実証を進め、地域のエネルギー事情に合わせた選択肢を用意。
パートナーシップと体験価値：
- 燃料サプライヤーやエネルギー企業と連携し、合成燃料・水素の供給と充填インフラを実証。
- カーボンニュートラル燃料を用いたモータースポーツ参戦で、技術と物語性を同時に訴求。
成功の判断軸（KPIの例）
- 実使用でのCO2削減と燃費：WLTCなどの公的指標に加え、接続データで実運用の改善を可視化。
- 排ガス適合と保証：発電時のクリーン性能、耐久寿命、保証コストをバランスさせる。
- 総所有コストと顧客満足：価格・燃料費・メンテを含めた納得感、静粛性や音質などの体験価値。
- 収益性：小規模でも黒字化できるスケール設計と、ブランド牽引による波及効果。
まとめ：夢を現実に変える道筋
ロータリーの全面復活は簡単ではありません。しかし、発電専用への特化と電動化・次世代燃料の組み合わせなら、技術的にも事業的にも現実味が増します。まずはレンジエクステンダーの量産と用途開拓で存在感を高め、限定スポーツやモータースポーツで物語を紡ぐ。マツダが得意とする「人馬一体」を、キャラクターの強いロータリーで次世代に翻訳できれば、夢は持続可能な形でよみがえるはずです。
