市民逮捕(現行犯逮捕)は、目の前で犯罪が起きたときに一般の人でも加害者を押さえられる制度です。しかし、やり方を誤れば「不当な拘束」や損害賠償の責任を負う危険があります。本稿では、現行犯逮捕の適法条件、避けるべき拘束、そして警察への通報・引き渡しの流れを、なるべく平易に整理します。大切なのは、身の安全と相手の権利を守りつつ、早く警察につなぐことです。
現行犯逮捕の基本と範囲
現行犯逮捕は「今まさに犯罪が行われている」または「直後で明らかにその人だと分かる」場合に限られます。誰でも逮捕できますが、対象はあくまで現行犯(準現行犯を含む)に限定。後日、犯人らしき人を見かけたからといって取り押さえることはできません。逮捕できるのは逃走を防ぎ、警察に引き渡すまでの必要最小限の時間と方法に限られます。
適法とされるための3つのキーポイント
- 現行性・明白性:その人が犯行中または犯行直後であることが外形上明らかであること(目撃・直後の追跡・犯行品の携行など)。
- 必要性・相当性:逃走防止のために合理的で穏当な手段をとること。危険があれば無理に接触せず、まず110番通報を優先。
- 速やかな引き渡し:直ちに警察へ通報し、到着後に身柄と状況を引き渡すこと。長時間の独自拘束は不可。
してはいけない拘束の例
- 過度な力や道具の使用:殴打・関節技・テープやロープで縛る・市販手錠の濫用などは、相手が抵抗していなくても違法と評価されやすい。
- 長時間の留め置き:警察が来るまでの短時間に限定。事務所や車内に連れ込み、延々と待たせるのは避ける。
- 所持品検査・取り調べ:バッグの中身確認や問い詰めて自白を迫る行為はNG。証拠保全は警察に任せる。
- 無用な移送:現場から遠くへ移動させるのは原則避ける。危険回避の最小限の移動を除き、その場で通報・待機。
- 晒し行為:動画配信やSNS拡散は名誉・プライバシー侵害のリスクが高い。
通報と引き渡しの流れ
- 安全確保:自分や周囲の安全を最優先。危険がある場合は距離を取り、追跡や接触は避ける。
- 110番通報:場所、状況(何が起きたか、負傷者や凶器の有無、相手の特徴・人数)を簡潔に伝える。通信指令の指示に従う。
- 身柄の確保は最小限:可能なら声かけや周囲の協力で待機を促す。接触する場合も、逃走防止に必要な範囲にとどめる。
- 引き渡し:警察到着後、見た事実、時間経過、保全した物(防犯カメラ映像、レシート等)の所在を伝える。身分の提示を求められたら協力する。
証拠保全は「安全と合法性」優先
映像や客観的メモは有用ですが、危険を冒してまで撮影しないこと。店内カメラの映像や購入記録など、既存のデータ保全を優先し、勝手な開封・押収まがいの行為は避けます。個人で得た写真・動画は、ネット公開ではなく警察へ提供を。
よくある誤解とリスク
- 「万引きは確実だから強く拘束してよい」:過度な力は違法評価のリスク。逃走の恐れが高い場合も、必要最小限を守る。
- 「疑わしいだけでもOK」:疑いだけでの拘束は逮捕監禁・不法行為となり得る。現行性と明白性が鍵。
- 「所持品を確認すれば早い」:任意同意がなければ基本NG。混乱やトラブルの原因に。
- 「SNSで周知すれば抑止になる」:名誉毀損やプライバシー侵害の可能性が高く、逆効果になりやすい。
まとめ:まず通報、最小限の関与
市民逮捕は「現行性・明白性」「必要最小限の拘束」「速やかな引き渡し」が三本柱です。無理な取り押さえや独自捜査はリスクが大きい一方、早期の110番と冷静な情報提供は大きな力になります。自分と周囲の安全を最優先に、警察につなぐ架け橋として行動しましょう。
























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