自宅やカフェ、マンションの共有スペースなどで、見知らぬWi-Fiの電波がたくさん表示されるのは日常の風景になりました。その一方で、「鍵マークがないWi-Fiなら勝手に使ってもいいの?」「パスワードを教えてもらった友人のWi-Fiを、あとからこっそり使い続けるのは違法?」といった、グレーゾーンに見える場面も増えています。
この記事では、「他人のWi-Fiを勝手に使うこと」はどこから違法になるのか、特に刑事罰の代表である「不正アクセス禁止法」との関係を中心に、できるだけ平易な言葉で整理してみます。
他人のWi-Fi「ただ乗り」はどんな問題になるのか
他人のWi-Fiを無断で使う行為は、法律上おおきく次の2つの観点から問題になりえます。
- 契約や所有権の問題(民事上のトラブル)
本来、Wi-Fiの回線契約者だけが、利用料金を払って回線を使う権利を持っています。他人が勝手に使えば、「ただ乗り」されている契約者側は、料金だけ負担して恩恵を横取りされる状態になります。これは、場合によっては「不法行為」や「不当利得」として損害賠償の対象になりえます。 - 刑事上の問題(犯罪になるかどうか)
他人のWi-Fiにアクセスする行為が、「不正アクセス禁止法」にあたるのか、あるいは窃盗や電子計算機使用詐欺など、別の罪にあたるのかが争点になります。
ニュースやネット記事では、とくに「不正アクセス罪との関係」が話題になりがちなので、ここを少し詳しく見ていきます。
「不正アクセス禁止法」は何を禁じている?
不正アクセス禁止法は、ざっくり言うと「IDやパスワードなどの”鍵”を破って、他人のコンピュータやサービスに勝手に入り込むこと」を処罰する法律です。
ここでポイントになるのは、次のようなキーワードです。
- ID・パスワードなどの「アクセス制御」があること
- それを正当な権限なく突破・利用すること
Wi-Fiの場合に置き換えると、「暗号化されていてパスワードが設定されているWi-Fiに、勝手に侵入する」ケースでは、この「アクセス制御」を破る行為に近くなります。ただし、Wi-Fi自体は「ネット接続のための入り口」であって、法律上の議論では「Webサービスやサーバーに不正にログインした場合」とは少し性格が異なります。
鍵なしWi-Fiへの接続は違法?グレー?
街中で、ときどきパスワードも暗号化もされていない「オープンなWi-Fi」が見つかることがあります。ここに勝手に接続する行為が「不正アクセス罪」になるかどうかは、実務でも議論があります。
不正アクセス禁止法は、「アクセス制御があるもの」を対象にしているため、もともと鍵がかかっていないWi-Fiについては、条文のイメージに当てはめにくい面があります。つまり、「鍵を破っていないから、不正アクセス禁止法そのものには該当しないのでは」という考え方です。
一方で、「契約者の同意なく無断で電波と回線を使っている」という構図は変わらないため、民事上の損害賠償の対象になりうることや、悪質な場合には別の犯罪(たとえば窃盗に近い評価)を検討すべきではないか、という議論も見られます。
少なくとも、「鍵がかかってない=自由に使ってよい」という意味ではない、と考えておくのが安全です。
パスワード付きWi-Fiを「勝手に使い続ける」とどうなる?
もう少しイメージしやすいのが、次のようなケースです。
- 友人の家でWi-Fiパスワードを教えてもらい、あとから勝手に家の前などで使い続ける
- 退職した会社のWi-Fiパスワードを覚えていて、外からつないで利用する
- ホテル等で一時利用用パスワードをもらったのに、規定時間を超えて裏技的に使いまわす
これらは、当初は正当な許可を得てパスワードを知ったものの、その後は本来想定されていない範囲・期間で無断使用している点が問題になります。
不正アクセス禁止法は、他人のID・パスワードを「権限なく」使ってサービスにアクセスすることを禁じており、「かつては正当に知ったパスワード」であっても、今現在の権限がないなら不正アクセスにあたると評価されうるとされています。
さらに、会社や店舗などのネットワークでは、内部システムや顧客情報にアクセスできてしまうこともあります。そのような場合、単なる「ただ乗り」では済まず、不正アクセスや情報漏えいなど、重い責任を問われるおそれがあります。
実務上よく語られる「グレーゾーン」
他人Wi-Fiのただ乗りが話題になるとき、よく登場するのが次のようなグレーな場面です。
- マンションの住人共有Wi-Fiを、住人以外が使う
- カフェのフリーWi-Fiを、注文もせず店の外から利用し続ける
- 暗号化されていない近所のWi-Fiに、こっそり接続し続ける
これらは、「明確に不正アクセス罪に当たる」と断定しにくいが、許される行為とも言い難いケースが多いのが実情です。刑事上の違法性(犯罪になるかどうか)だけでなく、マナーや倫理、そして契約や損害賠償の問題も絡むため、「法律ギリギリならやってよい」という発想は、トラブルのもとになりがちです。
トラブルを避けるためのシンプルな心構え
細かい法律論はさておき、日常生活でトラブルを避けるために意識しておきたいポイントは次の3つです。
- 「自分が契約していない回線」は、原則として勝手に使わない
- 一時的に許可されたパスワードやアカウントは、その目的と期間を超えて使わない
- オープンなWi-Fiでも「所有者の意図」を考え、グレーに思えたら利用を控える
また、自分の立場からできる対策としては、次のようなものがあります。
- 自宅Wi-Fiには必ずパスワードと暗号化方式(WPA2/WPA3など)を設定する
- パスワードを共有する場合は、「この範囲で・この人まで」など利用条件をあらかじめ伝える
- ルーターの管理画面で、知らない端末が接続していないかときどき確認する
これだけでも、「知らないうちに他人にただ乗りされていた」「知らずに相手を怒らせてしまった」といった揉め事を、大きく減らすことができます。
まとめ:法律的な「線引き」よりも、安全側の行動を
他人Wi-Fiのただ乗りは、「パスワードを破ったか」「権限のないIDを使ったか」など、技術的・法律的な要素が絡み合うため、判例や学説でもグレーな部分が残っています。
しかし、「タダなら使える」「鍵がないから自由に使っていい」と考えるのは危険です。たとえ不正アクセス禁止法に当たらない場合でも、民事責任や別の罪、信頼関係の破壊といった代償を招くおそれがあります。
結局のところ、他人のWi-Fiについては、
- はっきりとした許可がある場合だけ使う
- 許可の範囲と期間を守る
- 疑わしいと感じたら踏みとどまる
というシンプルな心構えが、もっとも現実的な「トラブル回避の処方箋」と言えるでしょう。






















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