私たちの生活に欠かせないスマートフォンやインターネット。その裏側を支えているのが「通信」技術です。数年前に登場した5G通信は、動画のストリーミングやオンラインゲームを快適にし、私たちのデジタルライフを一段と豊かにしてくれました。しかし、これから本格化するAI（人工知能）やIoT（モノのインターネット）、そしてメタバースといった技術は、現在の通信インフラにさらなる能力を要求しています。では、当のAI自身は、これから先の「通信」がどのように進化していくと考えているのでしょうか？今回はAIの視点を取り入れながら、次世代通信が拓く未来を予測してみたいと思います。
5Gのその先へ：AIが描く「6G」の世界
AIがまず予測するのは、現在普及が進む5Gの次世代規格である「6G（第6世代移動通信システム）」の登場です。これは単なるスピードアップではありません。AIによれば、6Gは私たちの社会のあり方を根底から変えるポテンシャルを秘めています。
まず、通信速度は5Gの10倍から100倍にもなると予測されています。これは、2時間の映画を瞬きする間にダウンロードできるレベルです。また、遅延（データのやり取りにかかる時間）は5Gの10分の1以下に。これにより、遠隔地にいる医師がロボットアームを操作して手術を行う際、手の動きとロボットの動きが完全にシンクロし、まるでその場にいるかのような精密な操作が可能になります。さらに、同時接続できるデバイスの数も桁違いに増え、家中の家電はもちろん、街中の信号機やセンサー、走行する車など、身の回りのあらゆるモノがインターネットにつながる世界の基盤となります。
6Gが実現する世界では、完全な自動運転車が互いにリアルタイムで通信し合って渋滞や事故を未然に防いだり、仮想空間（メタバース）の中で、相手のアバターと本当に握手しているかのような触覚まで共有できたりと、まさにSF映画で描かれたような体験が日常になるかもしれません。
通信自体が賢くなる？AIとネットワークの融合
次世代通信のもう一つの重要な進化は、「通信ネットワークとAIの融合」です。これまでの通信は、データをA地点からB地点へ運ぶ「土管」のような役割でした。しかしAIは、この土管自体が「賢くなる」と予測しています。
例えば、AIが通信ネットワークを常に監視し、特定の場所で通信が混雑しそうだと予測すると、自動的にデータの通り道を迂回させ、通信の遅延を防ぎます。これは、カーナビが渋滞を予測して最適なルートを提案してくれるのに似ています。また、ネットワークに異常が発生する兆候をAIが事前に検知し、技術者が現地に駆けつける前に自己修復を試みることも可能になるでしょう。これにより、私たちはこれまで以上に安定した、途切れることのない通信を享受できるようになります。
さらに、「エッジAI」という考え方も重要です。これは、データを遠くのデータセンターに送って処理するのではなく、スマートフォンや自動車など、利用者の近く（エッジ）でAIがデータ処理を行う技術です。次世代の超低遅延通信は、このエッジAIの能力を最大限に引き出し、例えば自動運転車が目の前の歩行者を瞬時に認識してブレーキをかけるといった、一刻を争う判断をより速く、より正確に行うことを可能にします。
空から宇宙から、地球まるごと通信エリアへ
どんなに通信技術が進化しても、「つながらない場所」があっては意味がありません。山間部や離島、海上や空の上など、従来の地上基地局だけではカバーしきれないエリアが存在するのが現状です。AIは、この課題を解決するために、通信インフラが「立体的」に進化すると予測しています。
具体的には、成層圏を飛行する無人航空機（HAPS）や、宇宙空間に数千機の小型人工衛星を打ち上げて連携させる「衛星コンステレーション」が、空や宇宙から地上に電波を届ける「空飛ぶ基地局」の役割を担います。これにより、地球上のあらゆる場所がシームレスな通信エリアとなり、災害時にも安定した通信を確保できるほか、これまでインターネット環境が整っていなかった地域への教育や医療の提供など、社会的な課題の解決にも大きく貢献することが期待されます。
もはや通信は、地上だけのインフラではなく、空と宇宙をも活用した、地球全体を覆う巨大なネットワークへと進化していくのです。
AIが予測する未来は「感じるインターネット」へ
AIが予測する次世代通信の未来は、単に「より速く、より便利に」なるだけではありません。ネットワーク自体が賢く自律的に動作し、空や宇宙からも私たちをつなぎ、これまで不可能だった体験を可能にします。その先に見えるのは、視覚や聴覚だけでなく、触覚までもリアルタイムに伝送できる「感じるインターネット（Tactile Internet）」の世界かもしれません。
遠くに住む家族と、温もりを感じながらハグをする。仮想空間で、本物の楽器を演奏しているかのような感触を味わう。そんな未来が、すぐそこまで来ています。次世代通信は、AIという賢いパートナーを得て、私たちのコミュニケーションの質を、そして社会の形を、大きく変えていくことになるでしょう。
